地政学を英国で学んだ
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「リアリストたちの反乱」(その二)

▼ リアリズム―――「パワーによる国際政治論」

すでに述べたように、ブッシュの外交政策に異議を唱え、保守派の内部闘争に第三勢力として殴りこみをかけたのは「リアリスト」(Realists)と呼ばれる学者たちである。

彼らが一体どういう意図からブッシュ政権の「ネオコン」たちの外交政策を攻撃しはじめたのかというと、彼らの信奉する「リアリズム」(Realism)という理論から考えると、ブッシュ=ネオコン連合のイラク侵攻は、とんでもない大マチガイの戦略だったからである。

ではこの「リアリズム」とは何なのか。

「リアリズム」といえば、美術などのでは「写実主義」のような意味になるのだが、国際政治を理論的に分析しようとする「国際関係論」という学問では、ズバリ、「国際関係を、主に『権力(パワー)』という要素にしぼって分析、予測する理論」ということである。

ようするにリアリズムとは、「国際政治というのはすべて権力の力学による闘争なのだ!」と現実的(realistic)に考える理論なのである。だからリアリズム(現実主義)なのだ。

この理論の中核にある「権力=パワー」というコンセプトが、まずクセものである。リアリズムという学派では、伝統的にこの「権力=パワー」というのは、主に軍事力によって支えられると考えられている。よって、彼らにとってみれば、国際政治を動かす「パワー(power)」というのは、「軍事力による脅しや実際の行動(攻撃)によって、相手の国を自国の意思にしたがわせる能力」ということなのだ。

究極的にいえば、リアリズムでは、この「パワー」こそが国際社会を動かす唯一最大の要素なのだ。だからここに注目してさえいれば、だいたいの動きは読めてしまう、ということなのである。

平和信仰の強い日本人にしてみれば、「なんとえげつない理論だ」と思われがちだ。ところが欧米の国際関係論の学界では、いまだにこの「リアリズム」が一番説得力のある強い理論だとされており、これを知らない、いや、知っていても認めないのは、アカく染まった日本の学者や知識人たちだけという状況になっている。

余談だが、いまの国際関係論の理論の状況は、戦後の日本の政界の状態と非常によく似ている、ということを指摘しておきたい。

この学問でメジャーな理論は二つだけで、そのあとにいくつかの弱いものが続く、という状況になっている。一番強いのが「リアリズム(現実主義派)」、二番目に強い「リベラリズム(自由主義)」、そしてその他として、「マルクス主義」や、「コンストラクティビズム」、そして「フェミニズム」などが続くのだ。

これを日本の政界の状態と照らし合わせてみよう。リアリズムは自民党、リベラリズムが民主党(旧社会党)、そしてその下にマルクス主義の共産党、フェミニズムが社民党、そして最近発達が目覚ましいコンストラクティビズムが公明党である。まったく状況がソックリではないか。

▼ なぜリアリストたちはイラク戦争に反対したのか?

話がそれた。ではこのリアリストたちが、なぜアメリカのイラク戦争に反対したのだろうか。この理由は、実はかなり簡単である。

それはズバリ、「平和を乱すから」である。なんや、当たり前やんけ!と突っ込みを入れてもらってもかまわない。ところがここで注意してもらいたいのが、彼らにとっての「平和」というコンセプトの意味合い(ニュアンス)である。

リアリストたちが「国際社会はパワーの闘争によって動かされている!」と考えていることはすでに述べたが、その彼らにすれば、「平和」というのは単なる「闘争の合間の小休止」、もしくは「軍事バランスがとれていて、お互いに手出しできない状態」ということになるのだ。よって、軍事バランスがくずれれば、世界の国々はいつでも戦争をおっぱじめる、というのが彼らの言い分なのである。

では国際社会を「平和」に保つためにはどうしたらいいのか?彼らにいわせれば単純明快。それは「軍事バランスを保つこと」である。具体的には、世界中のライバル国家たちに軍事力でバランスをとらせて、お互いに手出しさせないようにしろ、というのだ。

これはいわば、パキスタンとインド、北朝鮮と韓国のような、にらみ合いだが安定した状態を作り、国際政治の権力闘争を封じ込めてしまえ、という過激なものである。たしかにこうしておけば「戦争の間の小休止状態=平和」は実現する。

そういうことだから、彼らにとってみれば戦後から40年以上続いた冷戦時代というのは、それほど悪い時代ではなかった、ということになる。

ご存知のとおり、冷戦時代というのはソ連とアメリカという二大国家が、大規模な直接対決(熱い戦争)戦争をせずに、軍事的にはバランスを保って小康状態(平和)を保っていた。日本や西ドイツが経済をここまで発展させることができたのも、両国がソ連とのにらみ合いをしているアメリカの保護の下で、せっせと蓄財に励んだから、ともいえるのだ。

歴代の大リアリスト学者たちが、アメリカの朝鮮戦争やベトナム戦争介入に反対したのもこういう理由からである。たとえばハンス・モーゲンソー(Hans J. Morgenthau:1904-1980)という有名なリアリストの国際政治学者がいるが、彼は自分の理論から考えて、あまりにも当時のアメリカのベトナム戦争介入が間違っていると思った。しかも思っただけでなく、それを頑固に主張しすぎたため、しまいには政府からの風当たりが強くなり、長年教えていたシカゴ大学にいられなくなって、晩年はニューヨークの小さな大学に飛ばされて不遇の人生を終えている。

▼リアリストが反対した、論理的な根拠。

そこでイラクである。ここまで読んだ皆さんにすれば、なぜリアリストたちがアメリカのイラク侵攻に反対したのか、本当の理由がそろそろおわかりいただけると思う。

リアリストがイラク侵攻に反対した理由は、もちろんシンプルにいえば「平和を乱すから」なのだが、もっとくわしくいえば、中東にアメリカが殴りこむことによって軍事バランスを崩し、この地域に大混乱が起こるから、ということであった。

よってリアリストにしてみれば、アメリカが取るべき戦略は、第一次湾岸戦争終了直後からやってきたとおりに、経済的に「囲っておく、封じ込めておく」という戦略であった。こうすれば時間がたつとともに、イラクはソ連のように自壊し、消滅してしまうだろうと考えたのである。ようするにイラクをソ連と同じ戦法で片付けてしまえ、ということだったのだ。

ところが「ネオコン」たちはそう考えなかった。彼らは楽観的に「イラク国民はアメリカに民主化されるのを待っているのだ!」と考えており、「フセインを倒せ!」「アメリカはイラクに侵攻せよ!」と叫んでいたのである。ようするに「いますぐ強制的にイラクを崩壊させろ!」なわけであるから、リアリストたちと意見が合うワケがない。

以前からくすぶっていたこの意見の対立が論戦となって勃発したのは、今年(2003年の)2月に、大手シンクタンクである外交評議会(Council on Foreign Relations :CFR)の主催で行われた、「ネオコン」対「リアリスト」の直接対決による、火花散る大バトル討論会であった。

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