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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年04月12日 リーダーはなぜウソをつくのか

今週の本メルマガでは、いつものように
国際情勢に関する時事トピックを論じるのではなく、
今月後半に出版が決定した私の新訳本である、

ジョン・ミアシャイマー著
『リーダーはなぜウソをつくのか:五つの戦略的なウソの真実』
についての紹介をさせていただきたい。

本誌をお読みの方々の中にはすでにご存知の方もいらっしゃるとは思うが、
私は数年前にシカゴ大学教授で国際関係論の中の
「リアリズム」という学派の理論家として世界的にも有名な、
このミアシャイマー教授の主著である
『大国政治の悲劇』(The Tragedy of Great Power Politics)
を翻訳したことをきっかけに、本誌の思想的ベースとなる
リアリズム系や戦略系の名著を、
十冊近くも翻訳させていただくご縁をいただいた。

ミアシャイマー教授はその数年後に『イスラエルロビーとアメリカの外交政策』
(正しくは"対外政策"だが)という論文と本を書いたことで
世界的に大議論を巻き起こしており、日本でも翻訳が出ているのだが、
私が今回翻訳させていただいた最新作の

『リーダーたちはなぜウソをつくのか』

も、前作と同様に各界で激論を巻き起こしており、
本誌ではこれからこの衝撃的なテーマを扱った本の内容を
"戦略的嗅覚"の鋭い「アメ通」読者の皆様に、
世界に先駆けて簡単にご紹介していきたいと思っている。

その前に今週号では、まずは原著者のミアシャイマー教授の
経歴からご紹介していきたいと思っている。
以下の文は、私が本の中の「訳者あとがき」の中で記したものである。
ぜひ参考にしていただきたい。

              -*- -*- -*-

●著者の経歴

ミアシャイマーは一九四七年にアメリカのニューヨーク市に生まれ育ち、
ベトナム戦争が激しくなっていた時期に一七歳から米陸軍士官学校として
名高いウェストポイントに入学し、卒業している。本書の中にもその頃に
習った厳しい規則についての記述がある。

その後の五年間は空軍に勤務しながら南カリフォルニア大学で一九七四
年に国際関係論で修士号を修了し、そのままコーネル大学に入学して抑止
理論などをテーマにして、ジョージ・クエスター(George H. Quester)や
リーチャード・ローゼクランス(Richard N. Rosecrance)などの指導の下
で一九八一年に博士号を取得している。在学中からリベラル寄りとされる
ブルッキングス研究所で研究員をつとめており、卒業後はハーヴァード大
学の研究所で二年ほど研究員も務めてたあとにシカゴ大学へ移り、以来そ
こでシカゴ大学一筋で教え続けている。

コーネル時代に書いた博士号論文は一九八三年に『通常兵器による抑止』
(Conventional Deterrence)という題名の本としてまとめられて出版され、
当時の英語圏の安全保障業界に衝撃を与えている。これは後の『大国政治
の悲劇』と共に、学術賞を受賞している。

保守派的・タカ派的な理論のおかげでアメリカの共和党寄りな政治思想
を持っているのかと思いきや、実は民主党に人脈があるようで、一九九二
年には当時のクリントン政権に国防長官として採用されるという噂も出た
ことがある。また、アメリカの外交政策に大きな影響力を与え、豊富な資
金源もあるシンクタンクである「外交問題評議会」
(the Council on Foreign Relations: CFR)とも関係が深く、一九九〇年
代後半には前述した主著である『大国政治の悲劇』を書くためにここの特
別研究員を務めたほか、現在もこのメンバーとして名を連ねている。

専門は安全保障を中心とした国際関係であり、国際政治の動きを主に安
全保障の観点から予測・分析する、正真正銘の「現実主義者」(リアリス
ト)と呼ばれる理論家である。とくに彼は国際社会をシステム的に構造分
析することを得意とすることから、リアリストの中でも「ネオリアリスト」
(新現実主義者)に分類されている。

厖大な数の論文の割には著作の数は少なめで、博士号論文が元になった
デビュー作である前述の『通常兵器による抑止』の次に、イギリスの有名
な歴史家・ジャーナリストであるバジル・リデルハート
(Sir Basil H. Liddll-Hart)を痛烈に批判した『リデルハートと歴史の
重み』(Liddell Hart and the Weight of History)を一九八八年に出版
している。以降は主に議論の的となった有名な論文をいくつか発表してお
り、たとえば冷戦直後の一九九〇年夏に、世界(とくにヨーロッパ)の多
極化をリアリズムの理論から予言した「バック・トゥー・ザ・フューチャ
ー:冷戦後のヨーロッパの不安定性」
(Back to the Future: Instability in Europe After the Cold War)と
いう題名の論文を、高級専門誌であるインターナショナル・セキュリティー
(International Security)誌に掲載して大きな話題になり、一九九四年
末には 国連のような組織は国際制度機関は大国の行動には影響を与えられ
ないという挑発的な内容の「国際制度機関の口約束」
(The False Promise of International Institutions)という論文を書いて、
これも議論を巻き起こしている。

そしてこのような論文の中で示したアイディアの集大成として、二〇〇一
年に満を持して『大国政治の悲劇』(Tragedy of Great Power Politics)
という理論書を出版し、これも学術賞を獲得している。

九〇年代からアメリカの介入過剰で節度のない外交政策には不満を抱い
ていたようであり、二〇〇三年のイラク侵攻の前後から「ネオコン」と呼
ばれるユダヤ系知識人を中心とするアメリカの中の親イスラエルのタカ派
の人々を痛烈に批判する論説記事を書いたり、彼らと公開の場で議論を行
ったりしていた。

ところが実際にイラク侵攻が行われるとミアシャイマーはとうとうしび
れを切らし、二〇〇五年にはシカゴ大学の元同僚のスティーブン・ウォル
ト(ハーヴァード大学教授)と共著の形で「ロンドン・レビュー・オブ・
ブックス」に論文を書き、それを後に本にまとめたのが『イスラエル・ロ
ビーとアメリカの外交政策』である。

これはイスラエルにあまりに肩入れをするロビー団体がアメリカの外交
政策を誤った方向に導いていると大批判をして国際的に話題になり、二一
の言語に翻訳されたほかにも、世界各地に出版記念講演ツアーに出向いて
いる。余談だが、私もロンドンでこの講演に参加したが、聴衆が賛成・反
対にくっきりと分かれ、質疑応答の時間では怒号が飛び交うほど大粉狂し
たのが印象的であった。

他にも『大国政治の悲劇』の最後の部分で展開された、「中国が東アジ
アの覇権を目指すのは確実だ」とする、いわゆる「中国脅威論」を展開し
ており、フォーリン・ポリシー誌上で「中国を取り込んでしまえば怖くは
ない」と主張するカーター大統領の元外交アドバイザーで、アメリカの外
交政策の重鎮として有名なズビグネフ・ブレジンスキー
(Zbigniew Brzeziński)と論戦を行い、「危険な国際政治では国家は可愛
いバンビちゃんになるよりゴジラになったほうがいいのだ!」と論じて
真っ向勝負を挑んでいる。

この時の議論の詳細については、数年前に休刊してしまった文芸春秋社
のオピニオン誌である「諸君!」の二〇〇八年八月号に収録されている
「米・中プロパガンダ大戦がはじまった: 米国二大論客が壮絶バトル、
論戦のはざまにサミット後の北東アジア危機の構図がみえてきた」とい
う記事の中で、私がその論文の要約と解説を書いている。興味のある方
はぜひ参考にしていただきたい。

(おくやま)

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さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。