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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年04月19日 リーダーはなぜウソをつくのか(その2)

巷では北朝鮮のミサイル発射失敗事件が注目されているが、
先週に引き続き今週も本メルマガでは

▼『なぜリーダーはウソをつくのか:
  国際政治で使われる五つの"戦略的なウソ"』
  http://amzn.to/HMxh8y(ジョン・ミアシャイマー著)

についての紹介をさせて頂きたい。

前回、原著者ミアシャイマー教授の経歴をご紹介したが、
今回は新刊本の内容やその概略について踏み込んで解説したい。

ここだけの話であるが、今回のアメ通を読めば、
本書の内容がほぼわかってしまうくらいの「要約」であるとも言える。
そうなると「ここまで書いていいの?」
と訝しむ方もいらっしゃるかもしれない。

もちろん詳しい内容についてはあと10日ほどで発売される
現物の書籍をご確認頂くほかないのであるが、
普段「アメ通」を熱心にお読み頂いている読者の皆さんだけに、
私からのささやか感謝の気持ちとして、
今回は特別に公開に踏み切った次第である。

戦略系の書物のみならず、本をスムーズに読むためのセオリーとして、
まず、その書籍全体の構成・構造、また内容の概要を
自らの脳内にマッピングしてから本編に取り掛かる、というものがあるが、
今回の「アメ通」がその役割を果たせれば、幸いである。
本書を手にした際に、すぐにミアシャイマー教授の
主張の世界に入ってゆくためのナビゲーション的なのようなものとして、
今回のエントリーを理解していただきたい。

前置きが長くなってしまったが、そろそろ本書の内容をご紹介したい。
これまで「アメ通」を読み続けてこられた皆さんならば、
以下のテキストの内容を読んだけでも、最近の日本のトップや
国際政治の動きのメカニズムを理解するための
大いなるヒントを即座に得ることができるはずだ。

              -*- -*- -*-

●本書の特徴

本書は基本的に国際関係で、とくに国家のリーダーの間で使われる
ウソを分類した、いわば入門書的な体裁で書かれているが、国際的
な外交史の雑学書的な性格をもつと同時に、とくにブッシュ(息子)
政権におけるアメリカの大戦略や、イスラエルの対パレスチナ政策
への痛烈な批判書という風にも受け取れる。


本書が書かれた出発点はニューヨークタイムズマガジン(ニューヨ
ークタイムズの日曜版についてくる雑誌)の編集者であるサージ・
シュメマン氏に一本の電話をもらったことであった。この時の会話
をメモを基にして何度か講演を行った時に、熱い聴衆の反応を引き
起こしたことから、これを基にして論文を書いてまとめたのが本書
である。

つまり本書は意外な人物(一度も顔を合わせたことのない人)から
の質問という形で始まり、それがイラク戦争におけるブッシュ政権
のウソと、イスラエルの国際政治における発言権の大きさという、
彼の中の二つの問題意識と化学反応を起こした結果としてできたも
のであると言える。

まず本書でもっとも際立っているのは、国家のリーダーが使う相手
国にたいして使うウソ(「国家間で使われるウソ」)というものを
系統立てて考察している点であろう。

もう一度ここでおさらい的に振り返ってみると、まずミアシャイマ
ーはウソというものを体系的に考えるために、まずは人間が相手に
物事を伝える行為を大きく「真実の供述」(truth telling)と
「騙し」(deception)二つに区別しており、それを元に以下のよ
うな分類を行っている。

●「真実の供述」(truth telling)
vs

●「騙し」(deception)
1、「ウソをつく」(lying)
1-1「戦略的なウソ」(strategic lies)
「国家間のウソ」(inter-state lies)第三章
「恐怖の煽動」(fearmongering)第四章
「戦略的隠蔽」(strategic cover-ups)第五章
「ナショナリスト的神話作り」
(nationalist mythmaking)第六章
「リベラル的なウソ」(liberal lies)第七章
1-2「自己中心的なウソ」(selfish lies)
「無能の隠蔽」(ignoble cover-ups)
「社会帝国主義」(social imperialism)

2、「秘匿」(concealment)
3、「印象操作」(spinning)

そしてこのような分類から、彼は(1)の「戦略的なウソ」の五つの
ウソを中心に、それぞれについて代表的なケースを提示しながら、
本書で分析を行っていくのだ。

本書の結論は、著者も告白している通りに一般的なイメージとは
違って「意外なもの」である。それを一言で言えば、「国家のリ
ーダー同士は互いにあまりウソを使わないが、自国民にたいして
はかなりウソをつく」というものだ。ミアシャイマー自身も「リ
アリスト」という立場から、当初は国家間でウソが多用されてい
るという想定をしていたらしいが、実際に調べていくとその反対
の結果ばかりが出てきたとしており、その結論に自分でも驚いた
様子がうかがえて興味深い。

また、彼は意外なところで自分の得意な国際政治の理論と分析を
つなげている。たとえば結論の一番最後の部分で、ミアシャイマ
ーはアメリカのリーダーたちが将来において「恐怖の煽動」とい
うウソを使い続けることを予言しており、その理由としてアメリ
カは、(1)「選択の戦争」を、(2)遠くの場所で行おうとする、
(3)民主制国家、という三点を挙げているのだ。

ミアシャイマーは前々著の『大国政治の理論』で、「大国は本来
攻撃的なものだが、大きな水(海)があると攻撃性は和らぐ」と
いう主張をしており、本書でもその理論の根拠となる「水の制止
力」(stopping power of water)という概念を提唱しているのだ
が、アメリカのような島(北アメリカ大陸は島であると認識され
ている)にある大国は、ユーラシア大陸の国から侵略される危険
がなく十分安全であるために、海外に自国の国益をかけるための
戦争をしなくても良いということになる。

ところがアメリカはすでにユーラシア大陸に大きな権益を持って
いるため、すでに十分安全であるにもかかわらず、余計な武力介
入を行なおうという動機をエリートたちが持っており、さらにア
メリカは民主制国家であるために、リーダーをはじめとするエリ
ートたちは、海外での武力介入を正当化しようとして自国民にウ
ソ(この場合は「恐怖の煽動」)を多用することになるというのだ。

つまりここではミアシャイマーが本来得意とする「国際政治の枠
組み」というフレームワーク(「水の制止力」という地政学的な
要因も含むと考えられる)だけではなく、「民主制国家」という
国内制度の性格と、「リーダー」という国家を代表する「個人」
の役割にフォーカスを当てているのだ。これは「国家というのは
ビリヤードの玉と同じですべてが材質的には同じであり、違うの
はその(パワーの)サイズだけ」という議論を行っていた前々著
での説明から大きく離れたと言える。

彼のこのような分析を考える上で参考になるのは、私が他のと
ころで何度も指摘している、ケネス・ウォルツ(Kenneth Waltz)
の提唱した、国際政治の動きを見る際の「三つのイメージ」とい
う考え方だ。

ウォルツは一九五九年に、自身がコロンビア大学の博士号論文
として書いたものを『人間、国家、そして戦争』
(Man, the State, and War)という本にまとめて出版している。
この本の内容を簡単にいえば、「政治哲学では、いままで戦争の
原因という重大なテーマについて、主に三つのレベルで説明がな
されてきた」というものだ。

この「三つのレベル」とは、戦争の原因というものを、第一に個
人や人間の本質(human nature)のレベルに求めて説明するもの、
第二に政党や官僚組織、もしくは国家のレベル(ユニット・レベ
ルとも言う)から説明するもの、そして第三に国家同士のバラン
スや国際関係の枠組みのレベル(システム・レベルとも言う)か
ら説明するものに分類している。ウォルツはこれを自分の奥さん
の助言によってそれぞれ

(1)「ファースト・イメージ」(First Image)
(2)「セカンド・イメージ」(Second Image)
(3)「サード・イメージ」(Third Image)

と名づけており、結論としては戦争の原因として一番重要なのが
(3)「サード・イメージ」の国際的なレベルであると指摘している。
そしてこの枠組みを使って、後に「ネオリアリズム」という学派
を創設するきっかけとなった『国際政治の理論』(勁草社、二〇一〇年)
という本を一九七九年に完成させて出版している。

ウォルツはこの本の中で、純粋に(3)の「サード・イメージ」による
説明だけを使いながら、出版当時の冷戦の二極構造を社会科学的に
論述して世界の国際政治学界に衝撃を与えたのだが、同じくネオリ
アリストに分類されるミアシャイマーも「攻撃的リアリズム」とい
う自分の理論を、あえてシステムレベルの(3)の「サード・イメージ」
という、国際的な枠組みやバランス・オブ・パワーという概念だけを
使って、より大きな視点からの説明を行っているのだ。

そしてその成果が前々著の『大国政治の悲劇』なのだが、面白いこと
にその後のウォルトとの共著の『イスラエル・ロビー』では、アメリ
カ国内のロビー団体の影響力を分析したという意味で焦点を「セカン
ド・イメージ」に主に焦点を当てたものになっている。そして本書で
は、とうとう国家のリーダーという「個人の使うウソ」を研究したと
いう意味で、「ファースト・イメージ」を分析しているのだ。

ミアシャイマー本人はどこまで意識しているかわからないが、彼は
二〇〇〇年代を通じて、その分析を「サード・イメージ」から「ファ
ースト・イメージ」まで下ろして来た、という風に言えなくもない。

(おくやま)

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さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。