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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年04月26日 リーダーは(自国民に)ウソをつく(ことが多い)。

今週は、いよいよ私が訳した
ミアシャイマー著『なぜリーダーはウソをつくのか』( http://goo.gl/xgvFu )
が、本日発売されたので、前々回、前回に引き続き、
「アメ通」読者の皆さまに新刊のご紹介をさせて頂こうと思う。

今回は、前回までとは少し趣を変えて、

●なぜこのタイミングで出版することにしたのか?

●今回の新刊が私たち一人ひとりの生活や人生にどう役立つか?

という二つの論点を立てて、私なりに話を進めてみたい。

これまでに本メルマガでもお話ししてきたように、
このミアシャイマー教授の新刊本のエッセンスを一言でいえば、
「国家のリーダー同士は互いにそれほどウソをつかないが、
国民に向けてはウソを頻繁に使う」という意外な結論にある。

まさかこのような結論に至るとは、
原著者であるミアシャイマー教授自身も
「最初は信じられなかった」
と書いているが、たしかに歴史を紐解いてみると、
国家間のやりとりにおいて明らかな「ウソ」が使われた事例は
あまり認められない、という説明には説得力がある。

つまり本書の意義は、原著者であるミアシャイマー教授の意図する通り、
「摩訶不思議で厳しい国際政治の新しい面を知る」ということにある。

そして、本書の優れている点はそれだけではない。
この本には、これまでに私が訳してきた幾つかの書籍と同様に、
私たち個人にとって非常に多くの「発想のヒント」や
興味深い示唆を与えてくれるのである。

              -*- -*- -*-

それでは、まず第一のポイントである、
この本が現在のこの時期に出版されることの意味を考えてみたい。

これは皆さんも当然のようにご承知の、
昨今の我が国における内政面での、
大混乱と止めどなき迷走である。

実は本書の巻末に収録されている私の「訳者解説」においても
既に言及していることだが、大震災が起こった去年の三月以来、
日本を揺るがしている原発問題や、
強引とも思えるやり方で、増税にひた走る野田政権など、
ミアシャイマー教授が今回の新刊で提示している分析スキームでは、
日本の国家リーダーたちがとりうる行動原理のメカニズムが
鮮やかに解き明かされているのだ。

一例をあげると、「緊急時迅速放射能影響予測ネットワークシステム」、
いわゆる「SPEEDI」の放射性物資飛散データの、
日本政府側の公式発表に関する問題がある。

これは、日本政府が放射能飛散範囲の予測情報を、
米軍に対してかなり早い段階で渡しておきながら、
肝心の現地の住民に対しては、
なんと事故から九日間が経つまでデータの開示を行わなかったという、
なんともゆゆしき問題である。

また、更に最近の事例としては、
野田総理による消費税増税という政策課題への取り組み方にも
同じような傾向が視られる。
彼は国内においては、増税の意志を明言しなかったにもかかわらず、
外遊先の国連の場では、海外のリーダーたちに増税を明言したのだ。

こうして視てくると、ミアシャイマー教授が言うところの
「外には正直に、内には不正直に」
という国家のリーダーの行動のメカニズムが
現実世界において、本当に内在しているのだということが実感できる。

これはメディアによって流布される大量の情報をわれわれが吟味する際にも、
このスコープを通してみることで、表層的な理解のみに留まらない、
新たな認識・視点を得ることにつながるのではないだろうか。

              -*- -*- -*-

「アメ通」読者の皆さんにとって、より「リアル」に気になるのは、
第二のポイントである、
「現実世界では、この本は具体的にどう役に立つのか?」
ということではないだろうか。

冷酷な世界で貪欲に前に進もうとする読者の皆さんに、
私なりにこの点についてお応えすならば、
それは我々日本人が普段ほとんど行うことのない知的作業、すなわち
「ウソ」そのものを「分類」する、
という極めて特殊なことにある。

我が国では「ウソはついてはいけない、正直に生きよう」という、
素晴らしい文化的伝統が現在まで脈々と受け継がれているが、
異文化との衝突、異民族との間の殺戮合戦をくり返して、
否応無しに身も心も鍛えられてきた諸外国の人々にとっては、
「ウソをうまく使うことは、ある意味、当然である」
という認識・意識が厳然と存在していることは否めない。

ところがグローバル化した現在の世界情勢下においては、
諸外国と外交を行う際に、
相手の繰り出してくる「ウソ」や「騙し」に対して、
日本人だけが極めて鈍感であり、国際社会の冷酷な現実を知らない、
というのがいかに致命的で「ナイーブ」なものであるかは
容易にご理解いただけよう。

ミアシャイマー教授は今回の著書の中で、「ウソ」だけでも
1)「戦略的」
2)「自己中心的」
なものの二種類があること、そしてさらに、「騙し」の仲間として、
1)「印象操作」
2)「秘匿」
という二種類を挙げて、詳細な分類を行なっている。

必ずしも論理的思考に慣れているわけではない我々日本人からすると、
「そのような"理屈っぽい"知識など何の役に立つのだ!」
と、思ってしまいがちである。
しかし、今後、グローバル化が増々進む世界において、
日本人が外国人と交渉・折衝を行う際には、
このような知識はデフォルトとして認識しておくべきものなのだ。
そして本書からはそのような普通のビジネス本には書かれていない、
基本的な認識・知識を大いに学ぶことができるのである。

たとえば「印象操作」に類するものは、
実際に日本でも、就職活動などをはじめ、
ビジネスの現場においてはごく日常的に行われている、
ということは、いかに「ナイーブ」な我々でも、
リアルに実感出来るのではないだろうか。

そして、外国の友人やビジネスパートナーがいる方であれば、
ある程度は実感していると思うが、
彼らは「ウソ」そのものはあまり言わない代わりに、
「印象操作」や「秘匿」を駆使した、
「騙し」を日常的に行っていることが理解できるのだ。

              -*- -*- -*-

本書はそれ以外にも、日本国内はもちろん、
海外のメディアの情報を分析する際などに、
彼らのいわゆる「レトリック」などを見抜くのに
活用することができる。

たとえば、ある一つの情報が報じられた際に注目すべきは、
その情報が「何を報じたのか?」
ということよりも、
「何が報じられなかったのか?」
という点にあることは、情報分析の初歩の初歩である。

つまり、この「知らされなかった部分」を本書の内容に即して言えば、
「戦略的隠蔽」や「秘匿」になるのだが、
これを知るために伝統的に使われてきた手法が、
いわゆる「スパイ」であり、
それに関する活動などを学問的に研究しようということで
最近注目されているのが「インテリジェンス」という分野である。

更に、このスキームを「個人」の分析に適用してみることも可能だ。

まさか本書のアイディアが個人に使えるはずがない、
と思われるかもしれないが、
発想豊かに拡げ、分析の対象・範囲を拡大して解釈してみると、
例えば、
「自分の正直な気持ちにはウソをつきつつ、他人には素直な気持ちを話している」
といった行動を取る人がいることにも、なるほど、納得出来るのである。

つまり自分を客観的に分析する際にも、
このミアシャイマー教授のスキームは多いに活用出来るわけである。

              -*- -*- -*-

冒頭であげた二つのポイントに対して、
私なりにお応えしてみたが、いかがであっただろうか。

本書を実際に手にとって読み始めて頂けば
直ぐお気付きになると思うが、
ミアシャイマー教授のその他の著書と同様、
各章毎の構成がスッキリとした論理構造になっているので、
その構造の大枠さえ先に掴んでしまえば、
自らが興味を惹かれた章から読み進めるのも良いかもしれない。

それよりも重要なのは、
これから先、我が日本国が対峙せざる得ない、
諸外国との厳しい交渉・折衝という名の「戦場」において
確実にサバイバルするため「嗅覚」を
本書お読みになったみなさんに是非とも得て頂きたい、ということだ。

それこそが「リアリズム」学派における世界的な泰斗である
ミアシャイマー教授の著書を、
こうして皆さんに紹介している私の、
本当の狙いでもあるのだ。

(おくやま)

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さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。