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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年05月17日 実は成功だった!?「日中韓首脳会談」

-▼今日のChoke Point▼-

1:日本の潜在的プレゼンス
2:本当はスゴイ、日本外交の「お家芸」
3:災い転じて福となすのパラドクス

-▲         ▲-

#チョークポイント - Wikipedia ( http://goo.gl/z1J9z )

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五月一三日、一四日の二日間にわたって北京で開かれた
「日中韓首脳会談」であるが、
この話題は大手メディアでも盛んに報じられたこともあり、
読者の皆さんもいろいろ想うところがおありだろうと思う。

今回の「アメ通」はこの話題を素材として、
いつものように、国際関係についてのひねりの効いた見方を
読者の皆さんにご披露しようと思う。

さて、このニュースについての一般的な解説・分析では、
たとえば「日経新聞」の表現を一部引用すると、
野田政権はほとんど何も成果を上げることなく、二日目の首脳会談の最後には、
中国側に見事に
「胡主席と李明博大統領の会談だけが開かれ、はしごを外され」たとなっている。
※日経新聞「ほころぶ日中韓」五月十五日朝刊四頁:( http://goo.gl/zwzHR )

つまり、今回の会談では、日中韓三か国の自由貿易交渉(いわゆるFTA)
の分野では日本は一定の成果を上げたものの、
共同宣言などでは実質的に得るものが少なかったと報じられている。
要は、日本の外交は「敗北」したということであり、
実際の報道もこのようなものが大多数であった。

しかし、それは果たして本当なのだろうか?
ここで、私たちは「リアリスト」的な視点を導入することで、
ありきたりな分析以上の「知見」を得ることができるのである。

今回はそのようなポイントを以下の三つに絞って、ここで提示してみたい。

その三つとは、

1)日本のもつ予想外の「存在感」
2)日本が"お家芸"とする「外交手段」
3)日本がもっている有利な「選択肢」

である。順に説明してゆこう。

まず、(1)の「存在感」であるが、
これは要するに、日本という国家は東アジア地域における、
一つの有力な「プレイヤー」である、という事実だ。

たとえば日本国内の大手メディアによる報道では、
「日本も相当なパワーを持った、独立した意思をもった存在である」
という観点が完全に抜け落ちているものが多く、
このような報道姿勢について、私はかねがね疑問を抱いていた。

例えば、冒頭で紹介した報道などによれば、
中韓両国は、政権末期のいわゆる「レームダック」状態であり、
両国首脳としては、国内へのアピール効果の方を重視して、
外交問題に対しての意欲は希薄であった・・・
というような主旨の分析がなされている。

このような報道が、暗黙のうちに意図しているものは、
「日本は他国(中・韓)の国内事情のおかげで、何もできなかった」
ということである。つまりこのような分析に従えば、
日本にはまるで何も決定権がなかった、ということになってしまう。

ところがこれは、非常に危険なミスリードである。なぜか。

たとえばもし一国を代表する為政者やエリート達が、
このような認識をメディアで刷り込まれてしまうと、
陰に陽に重大な影響が出るからだ。
このメッセージが、彼らから自由な外交政策の発想を奪ってしまうのだ。

「日本は何もコントロールできない」
「だから日本はなすがなされるままだ」

などという根拠の無い悲観論から政策を立案してしまっては、
他国とシビアに渡り合える効果的なアイデアが出てくるはずがない。
ともすれば、これがさらにエスカレートし、
「日本は他国(や特定組織)に完全にコントロールされている」
という無茶な暴論につながる可能性も出てくる。

ところが冷静に分析してみると、
実は日本も巧みに外交政策を駆使して他国をコントロール出来ている事案もあり、
「われわれは日本にコントロールされている!」
「日本をコントロールさせるのはかなり困難だ!」
などと、相手国側が感じている場面はいくつもある。

ちなみに、現在は中国共産党の人民解放軍国防学院で戦略を教えている、
私のかつてのコースメイトなどは、
「中国は経済・マーケット面で、日本に完全に支配されている」
と真顔で語っていたものである。
彼のように、日本は意図的に「戦略」を使っている
と感じている人間がいることをわれわれは忘れがちだ。

つまり日本外交は、実は日本人側が思うほど「ヘタレ」ではなく、
その図体の大きさのために、一目置かれている部分がまだあるのだ。

              -*- -*- -*-

では、日本が(2)"お家芸"としてきた「外交手段」とは、
一体どのような「戦略」なのだろうか。

これは、いみじくも、拙訳である
『米国世界戦略の核心』という本の中で、
原著者のハーヴァード大学のスティーブン・ウォルト教授が、
「中・小国家が、アメリカのような大国相手に対して使う戦略」
として、そのうちのいくつかを紹介している。

ではウォルト教授のようなリアリストの視点からすると、
日本はどのような戦略を使っている(と思われている)のだろうか?

それは、いわゆる「ボーキング」(balking)といわれるものである。

「ボーキング」とは、「やります」と言って口約束をしておきながら、
ズルズルと約束を先延ばしにし、なかなか実行しないという「戦略」である。
いわば、労働闘争などで使われる「遵法闘争」、
もしくは「やるやる詐欺(?)」というものに近い。
※ちなみにこれは、野球用語としてお馴染みの「ボーク」という言葉と同一語源である

今回の三か国首脳会談の協議に関する一連の報道では、
事前に日本と韓国が歩調を合わせて、三か国共同の自由貿易圏の実現を目指す、
という内容のものが多かった。

ところがいざ幕が開けてみると、韓国は早々と日本を見切り、
中国との間でFTAの協議を始めてしまい、
その挙句には日本をのけ者にして、中国と個別の首脳会談を行ってしまったのだ。
これが、日本が「はしごを外された」
という表現につながったことは、冒頭ですでに述べた通りだ。

しかし、ここで見方を変えると、
日本は意識する・しないに関わらず、
中国や韓国に対して「ボーキング」していた
と捉えることもできるのである。

それどころか見方によれば、
日本が意図的にこの「ボーキング」を
仕掛けていたフシさえあるのだ。

読者の皆さんは、既にピンと来ているはずである。
そう、自民党時代の日本政府の得意ワザこそが、
この「ボーキング」であったのだ。

それは日米交渉の際に「やります」と口約束だけしておきながら、
国内の野党をはじめとする抵抗勢力を「利用」(?)して、
自らに科せられた責務の実行を遅らせジリジリと抵抗する、というアレである。
憲法九条を盾にした海外派兵の拒否など、まさに"お家芸"である。

今回の例でいえば、たしかに日本経済にとっては、
三か国間のFTAを結んでおけば有利になったのかもしれない。
特に経済界からの「早期FTA締結を!」という圧力は相当のものだったようだ。

だがFTAの成立が事実上「中国の傘下に入る」という
事態に陥る可能性すらあったわけで、
安全保障戦略面では、日本は今回、
いわゆる「中国リスク」に直面していたという解釈もできる。

「日本国内で抵抗勢力のせいで締結が難しくなった...」
という"お家芸"的な理屈を使えば、
日本が「ボーキング」を行なって、"わざと"会談を失敗させた、
と考えることもできてしまうのだ。ようするにこの失敗は、
日本政府が(無?)意識的に行っていた「戦略」によるものだったと言えるのだ。

エリート層を含めた大多数の日本人は、
日本政府がそのような高等戦略を採っているとはよもや思ってはいまい。
しかし、他国からすると(その認識が本当に妥当なのかどうかはともかく)、
「日本は戦略的に動いている」と感じる要素は、確実に存在しているのだ。

余談だが、冷戦後の日本のもう一つの"お家芸"として
「ヘッジング」という、「米中二股がけ戦略」があるのだが、
それについてはいずれ稿を改めて述べてみたいと思う。

              -*- -*- -*-

最後に、(3)の「選択肢」について説明してゆこう。

日本は、今回のような地域レベルでの自由貿易協定のみならず、
国際政治の舞台では、あえて曖昧な立場を取ることもできる。
そしてこれが意外に戦略的な「正解」となる場合がかなりあるのだ。

なぜなら一般的に戦略の策定では、
「選択肢を残しておく」
ということが極めて重要になる場合が多いからだ。

例えば、日本は中国大陸からは海をへだてて一定の距離があるために、
政治的にもユーラシア本土にある国からの(物的・政治的)影響を、
自らの判断で、ある程度、取捨選択できるという地理的利点がある。

これは、欧州におけるイギリスと同様のポジションであると言える。

英国はEUに加盟こそしているが、
共通通貨であるユーロは採用せず、独自の通貨(ポンド)を維持している。
これはヨーロッパ大陸の諸国間政治のステージにおいて、
イギリスが「選択肢」を残しているということに他ならない。

では、隣国である韓国は地理的にどのような位置付けとなるのか?

韓国は中国との二国間協定を急ぐことによって、
経済的には早めに中国にコミットしたということになる。
仮に中国を、欧州におけるEUと見立てた場合、
いうなれば、韓国はオランダやポルトガルになることを選んだ、
という意味合いになるのだ。

今後、もし中国経済のバブルが崩壊した場合には、
韓国は日本よりも中国市場に深くコミットしてしまったが故に、
より大きな被害を被ってしまう可能性もある。
つまり彼らはチャンスを得たと同時に、
戦略的には「中国リスク」という、
大きな負担をも抱え込んでしまったとも言えるわけだ。

韓国は、大陸に対しての半島に位置するという、
「地政学要因」からは絶対に逃れることができない。
逆に日本は、ユーラシア大陸とは海を隔て位置している。
つまり、日本は「オフショア」という
地政学的に大きなアドバンテージを生得しているのである。

この決定的に重要な要因があるので、
実は日本は戦略的な「選択肢」を持てているのだ。

              -*- -*- -*-

中国の今後の政治動向を考えると、今回の「失敗」は、
むしろ、「災い転じて福となす」となる可能性がある。
実は、我が日本はそれを見越して、
能動的なプレイヤーとして戦略を展開していた・・・
と言ってしまっては言い過ぎであろうか。

これまで「アメ通」では日本の政策に対して、
どちらかといえば厳しい意見を述べてきてはいるが、
考え方ややり方次第では、日本にもまだまだチャンスはある。

このことを、私は読者の皆さんに伝えたかったのである。
そうでなければ、こうして毎週「アメ通」を通じて
皆さんと共に日本のあるべき姿を考察している意味がないからだ。

さて、今回もこのような逆説的な分析を試みてみたが、
実はここまでお付き合い頂ける「アメ通」読者の皆さんこそが、
すでに、戦略「脳」力を備えた「能動的なプレイヤー」である、
と私は考えている。

そんな皆さんに、現代の戦略家を代表する
エドワード・ルトワックの言葉を紹介して、
今回の「アメ通」の最後を締めたい。

「戦略とは、パラドックスである」

そして、この戦略のパラドックスを理解したときにはじめて、
われわれは「能動的」なプレイヤーとして動けるのである。

(おくやま)

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さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。