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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年06月01日 日・米・中 東アジアのアブナイ三角関係

-▼今日のChoke Point▼-

1:純粋な「経済」ニュースなどない
2:「戦略的思考」に疎い日本人
3:3つの戦略思考ツール

-▲         ▲-

#チョークポイント - Wikipedia ( http://goo.gl/z1J9z )

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今回の「アメ通」は通常運転に戻って、
直近のトピックスをネタにして、
いつものように分析を展開してみたい。

そのネタとは、一部のメディアでもトップニュース扱だった、
人民元と円の直接取引の開始に関する報道だ。

▼円と元、来月にも直接取引
3メガ銀など 東京・上海市場、日中貿易を後押し :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGKDASGC26003_W2A520C1MM0000/

このニュースは、実際の紙面では、
5月26日付日経新聞の夕刊トップニュースであり、
見出しとそれに続くテキストも上記WEB版と同様であった。

つづく5月27日付の同紙の朝刊では
さらに詳しい報道がされており、その中で、
「近日中に安住財務大臣が、この取引開始を正式発表する」
との記述があり、まさにその通りに、
5月29日になってから安住大臣から声明発表があったのは、
読者の皆さんもすでにご存知の通りであろう。

この発表に関する報道は、
一見すると単なる経済ニュースであるが、
「リアリズム」的視点で見ると、全く別の側面が顕れてくる。

「アメ通」読者の皆さんには、私が毎回のように言っている
この「リアリズム的視点」というセリフに、
さすがに「もう聞きあきた...」と思われているかもしれないが、
みなさんに「戦略家」としての視点を身につけていただきたい私としては、
これくらいクドイほうが良いと思っている。
それほど日本の知的面での状況は危機的なものだからだ。

              -*- -*- -*-

それはともかく、本論を進めよう。

なぜ私がこのニュースに注目したのかというと、
今回の日中の経済面での歩み寄りが、
"世界覇権国"アメリカの立場からすると、
日中間で「ソフト・バランシング」(soft balancing)
という戦略を採用して、
アメリカに対抗しようとしているかの如く見えるからである。

「ソフト・バランシング」という概念については、
すでにこの「アメ通」誌上でも触れているが(http://bit.ly/HyGcqm)、
端的に言えば、圧倒的なパワーをもっている大国にたいして、
その周辺国が軍事力のようなハードなものではなく、
外交や経済のようなソフトな面から対抗(バランシング)
して行こうとする戦略的行為のことである。

そして、現在の国際政治の舞台で、
圧倒的なパワーを持っている大国といえば、
言うまでもなく、アメリカである。

ここで"ごく一般的な"日本人であれば、
このような私の分析について、
「え?!日本と中国は共同で、アメリカに戦略的に対抗しようとしているの?」
と思うであろうし、おそらくその意味さえわかって頂けないだろう。

しかし、「戦略的思考」に疎い一般的日本人の認識とは違い、
少なくともアメリカの一部、
そして、中国のエリート達の認識では、
今回の日中の取り決めの一件が持つ意味合いとは、
「日本は(中国と組んで)アメリカに戦略的に対抗しはじめた!」
という、まことにキナ臭い香りを濃厚に含むものなのだ。

しかし、その当事者たる日本人がこのことに
気づいていないのだからあきれてしまう。

              -*- -*- -*-

少し横道にそれるが、
ここで「基軸通貨」というものについて考えてみたい。

「基軸通貨」についての厳密な定義というのはないのだが、
一般的に言われているのは、
世界通貨として国際的に広く流通し、国際取引の際に使われる通貨、
というのが一般的な認識であろう。
そして、大戦前の英ポンドや、大戦後の米ドルのように、
基軸通貨というのは、基本的に
覇権国の「政治力」(とそれを支える軍事力)
の強さと比例して普及するものなのである。

上で紹介した記事でも
「これまで円と元は、ドルを間に挟んで取引されていた」
とあるように、現在の東アジアでは、
圧倒的に米ドルが使われているというのが実情なのだ。

つまり、「基軸通貨」としてのドルは、
アメリカの国際的な「パワー」のシンボルであり、
東アジア地域の「覇権国」は依然としてアメリカである、
ということを冷酷に表しているのである。

ここで読者の皆さんには、
「リアリスト」として思考して頂きたい。

今回のニュースでわかるのは、
東アジア地域の「経済的」両雄である日本と中国の間で、
「ドルを使うのはやめましょう」という話がまとまったという事実だ。

要するに今回の発表は、
表面的には「純粋な経済ニュース」なのだが、
アメリカの立場になってその戦略的意味合いを洞察してみると、

「日本は、アメリカのドルを捨てて、中国の人民元に乗り換えた!」
という、自国の「パワー」の低下を示す
ショッキングな出来事だということになる。

そんなアメリカの認識にも関わらず、
我々日本人は無邪気なことに、
「自分たちが中国と組んで戦略的に行動している」
という意識はほとんど持っていない。

しかし、国際政治というものは、大国、小国入り乱れ、
それぞれが生き残りをかけたパワーゲームの戦場であるわけで、
このような意識を持てば、今回の日中間の取引は、
アメリカに対する小さな「挑戦」であることがわかる。

そして、何よりも致命的な問題は、日本国内のメディアその他で、
このような「パワーゲーム」の一環の中に、
我々日本人も有無を言わさず巻き込まれている、
というシビアな分析が、まったく為されていないという事実だ。

              -*- -*- -*-

たとえば日本の新聞の報道を見てゆくと、
この人民元と円の直接取引の開始は、
日本にとって「経済的に儲かる」という話が中心であり、
そこに米中間のドロドロとした政治争いが含まれていることや、
えげつない「パワーゲーム」が繰り広げられている、
といった面から分析されることはほとんどない。

数少ない例外として、以下のような記事もあり、

▼中国、ドル依存脱却めざす 元の国際化戦略 加速 :日本経済新聞
http://www.nikkei.com/article/DGKDZO41888300X20C12A5NN1000/

ー「中国が人民元と円の直接取引に取り組むのは、
          外国為替取引のドル依存からの脱却が狙い」

ー「元の決済通貨としての重みを増す国際化戦略を加速する思惑」

などと指摘して、表向きは経済的な問題との体裁ながら、
その裏に「アメリカを東アジアから追い出したい!」
という中国の意図が見え隠れすることを、
ほんのわずかにほのめかす程度である。

やはり、国内主要メディアにおける国際経済の報道の傾向としては、

「決済が円滑になってコストが下がる」とか
「将来はオフショア取引で東京が主導権を握れる」などという、
経済面からのアプローチばかりである。

ようするに「経済的な利益」という視点に偏り過ぎており、
より上位概念とも言える、「パワーをめぐる争い」
にまで考えが及んでいない。つまり、戦略思考の「抽象度」が低いのである。

「抽象度」という点から言えば、「ドル(アメリカ)の追い出し」
を意識している中国サイドの人間の認識は、
現状を「戦略的」に見ているという点で、
日本サイドよりも高い「抽象度」で考えていると言える。

先ほどと同様に、
今度は中国の立場から戦略的にその意味合いを洞察してみると、

「我が中国は、東アジアからアメリカを追い出し、
 遂に念願叶って、あの憎き日本を軍門に下したのだ!」

という、
非常に厄介な意識を抱かせてしまった可能性すらあるのだ。

もちろん現実的には、「日本は中国に屈服した」
ということでは決してない。

しかし、「戦略的思考」で冷酷に現状を眺めると、
アメリカからは
「ドル基軸通貨体制を、日中の戦略的連携で潰された」
と思われ、逆に中国からは
「遂に中国が日本をコントロールできる存在になった」
と思われている可能性があるのだ。

              -*- -*- -*-

ここまでの分析でお分かりの通り、
単なる「経済的」ニュースというものはあり得ず、
その経済的側面から見え隠れする、
パワー・ポリティックスの香りを嗅ぎ分ける嗅覚が、
今のわれわれに最も必要なものなのだ。

この点、我が国のいわゆる大手メディアのセンスは、
残念ながら、大変お粗末であると言わざるを得ない。

今後、我が日本を取り巻く環境がより過酷さを増す中で、
より多くの日本人が、自らの頭で考え、
自ら道を切り拓かなければならなくなるのは確実である。

その際に強力な武器となるのが、
「リアリズム」「地政学」「プロパガンダ」
という、3つの「戦略的思考ツール」なのであり、
それを「アメ通」読者の皆さんが完全に使いこなせるようになるまで、
私はこのメルマガで繰り返し何度も指摘していく。

なぜなら、読者の皆さんにリアリズムを「実践」して頂くことこそが、
今後、日本が生き残る唯一の道だからである。

(おくやま)

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さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。