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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年06月17日 リアリズムとは、"大人"になるということ?!

-▼今日のChoke Point▼-

1:「リアリスト」も勝てない「イ◯ラエ◯・ロビー」!?
2:「人種/宗教」という危険な地雷源
3:「抽象度」を上げ、"お花畑"を出よ!

-▲         ▲-

#チョークポイント - Wikipedia ( http://goo.gl/z1J9z )

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先日、私は、スティーブン・ウォルト:ハーバード大学教授の
来日講演会に参加し、貴重な生のお話を聴く機会を得た。
今回はそこで触発されて感じたことを、皆さんとともに考えてみたい。

スティーブン・ウォルト教授と聞けば、
「アメ通」読者の皆さんならば、
あのジョン・ミアシャイマー教授との共著である、
▼『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』
 (http://goo.gl/h0kPm)
をすぐに思い浮かべて頂けることと思う。

ウォルト教授は、国際政治学における理論派として
国際的にも名の通った稀代の「リアリスト」である。

また、彼の単著である『米国世界戦略の核心』を

(原題:『Taming American Power』)(http://goo.gl/kH1fb )
翻訳して日本に紹介したのがこの私であったというご縁もあり、
どんな話が聴けるのか楽しみな気持ちで会場に向かった。

              -*- -*- -*-

今回のこのウォルトの講演会だが、
笹川平和財団の主催で行われたものであり、
その内容は、アメリカの中東政策における
「イスラエル・ロビー」の影響力の大きさを検証し、
それがいかにアメリカ(とイスラエル)の国益を害するものであるか
を分析するものだった。

▼【笹川平和財団主催 中東イスラム政治変動講演会シリーズ】
 第6回「アラブの春以後の米国中東政策とイスラエル・ロビー」
 -ハーバード大学教授による講演―
 http://www.spf.org/smeif-j/news/article_7966.html

この講演の内容としては、
現在のオバマ大統領のチームが
政権担当の第一期目に「イスラエル・ロビー」の圧力に屈して
パレスチナ問題の解決を口にしなくなった、といった
最近の情勢分析が入っていた程度であり、
講演内容の主旨としては、私が数年前にロンドンで見た
『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』
の出版記念講演会のものとほぼ同一の内容とも言えたため、
それほど目新しさは感じなかった

むしろ、私が興味深く感じたのは、
講演会後半に設けられた質疑応答の時間に行われた、
ウォルト教授と参加者とのやり取りである。

そこでは会場からの質問として、
同書出版後に自身が受けた「政治的圧力」
があったかどうかについて聞かれたのだ。

実際の質問の内容は、

「あなたはタブーであるとされるイスラエル・ロビーの影響力を分析し、
"反ユダヤ人"というレッテルを貼られてしまいました。
そのおかげであなたのゼミに参加している学生の就職活動等に
あまり好ましくない影響などはなかったのですか?」

という、いささか微妙なものであったのだが、
これにたいしてウォルト教授は、
あっさりと「パワー・ハラスメント」を受けたことを認め、

「現在私が所属するケネディ学院の院長や、ハーバード大学の学長、
それに政府のスタッフとして働くという道は、完全に閉ざされました」

と笑いながら率直に答えていたのが、非常に印象的であった。

以前の「アメ通」でも述べたように、
多民族国家であるアメリカでは、
「人種」にからむことについて語るのは
非常にデリケートな問題であり、
例えば、日中間の「文化」の違いについて語ることさえも、
「人種差別を助長する」というニュアンスから、
事実上「タブー」となってしまうような雰囲気すらある。

まして、それが今回のように、
宗教的な問題(この場合はユダヤ教)にも関係するテーマとなると、
どこに「地雷」が埋め込まれているかを絶えず意識しつつ、
かなり慎重に分析、考察、ならびに論述を行わざる得ない。

もちろんウォルト教授もこの点は熟知しており、
変な誤解を受けないように、講演の開始早々の時間から、
「イスラエル・ロビー」の定義付けを行なっている。

曰く、「イスラエル・ロビー」とは、
決して陰謀組織などではなく、
ユダヤ人という「人種」だけで構成されているわけでもなく、
あくまでもイスラエルという「国家」の政策を支持する、
積極的なロビー活動を行う多くの集団の"ゆるい"集合体の総称である・・・
といった具合である。

              -*- -*- -*-

さて、「アメ通」読者の皆さんにしてみれば、
このような「いかにも国際政治的」な話題は、
私が論ずるまでもなく、よくご存知かと思われるので、
いつものように私なりの、
少々"捻った"視点から論を進めてみたい。

今回、ウォルト教授の話を聴講していて私が想起したのは、
イスラエルロビーがアメリカの"対外政策"
("外交政策"という言葉は誤訳である)
にどのような影響を与えているのか?といった分析ではない。

それは、アメリカ(≒先進国一般)と比較して、
日本人は「宗教/人種問題」に対して無関心であり、
これは、今後の日本の行く末にとって大きなリスクとなる・・・
という、私なりの直観、というよりも、「確信」である。

たとえば、私が提唱する「戦略の階層」
という思考スキームから視ると、
今回の講演で触れられている「宗教/人種問題」は、
階層のトップに位置する「世界観」のレイヤーに直接影響する、
極めて大きな問題なのである。

ところが日本人は、他の国々の人々と比べて、
「宗教/人種問題」に無知であり、無神経だとも言える。

この理由は、われわれの教育システムにおいて、
「抽象度の高い思考をする」という訓練を、
ほとんどされてこなかったからである。

日本の教育機関で教えられるのは、
「具体的」に答えが出てくるような、
抽象度の低い、「技術」レベルの問題解決法ばかりであり、
概念や理論、または神学といったような、
人間の「世界観」に直結する、
「抽象的」なものは軽視されている。

この世の中には、
いくら議論をしてもスッキリとは解決策が出てこない、
神学的、哲学的な問題などは、それこそ山のようにある。

そしてこのような「宗教/人種」的なテーマに対峙するためには、
「抽象度」の高い思考に触れることができていないと、
そもそも初めからお話にならないのである。

幸か不幸か、われわれ日本人は、
異人種や異文化(異宗教)を持った人間がまわりに少なかったため、
「世界観」の違いにそれほど悩まずに済んできた。

しかし、そんな「幸せな(≒おめでたい)」状況が、
今後も続くはず、などと想っている者は、
「アメ通」読者の皆さんの中にはおられないだろう。

日本は現在、
いやでもグローバル化を進めざる得ない現実に直面しており、
今後は、「異なる世界観」を持つ人間と
丁々発止で相対しなければならなくなるのは確実だ。

つまり、論理必然的に、「宗教/人種」問題に対して、
よりシビアに神経を研ぎ澄ます必要が出てくる、
ということなのだ。

「異なる世界観」をもつ「他人」たちの考え方を理解することは、
ビジネス分野などで絶対的に必要なのは言うまでもないが、
それよりも、なにより日本人がこの冷酷な世界で
サバイバルするために必要となってくる大前提であり、
あまり心地が良くない...などと言っている猶予は
もはや存在し得ないのである。

              -*- -*- -*-

ここまでお読みの「アメ通」読者の皆さんに
いまさら誤解を受けることはないと想うのだが、
念のためここで再び述べておきたい。

私が今回主張したいのは、決して
「相手を理解して思いやり、国際親善に努めましょう」
などといった、
薄甘い「お花畑」的なリベラリズムの言説ではない。

私が本論でお話してきたのは、

「この世界には、われわれが理解できない"世界観"を持つ人間が存在する」

という厳然たる事実である。

誤解を恐れず、更に身も蓋もないことを言ってしまえば、
「われわれはそんな"彼ら"の全てを理解する必要などまったくない」
のである。

人間は違って当たり前であり、理解できなくて当然である。
それゆえに、まさしく「イスラエルロビー」の如く、
「パワーを使って相手をコントロールしよう」
と画策する人々がいるのであり、
その存在を正面から積極的に認めるべきなのだ。

くどいようだが、致命的なポイントなのでくり返したい。

われわれ日本人は、ある意味でもっと"悪賢く"なり、
「この世界には異なる「世界観」を持った人間が存在する」
という事実と現実を、
リアルに肌身感覚として感じとらなければならないのだ。

そのためには、
宗教や神学などを通じて「異なる世界観そのもの」を学び、
思考の「抽象度」を上げる必要がある。

そして、ウォルト教授の講演にもあったように、
「ある人種・宗教グループが、合法的な圧力によって
アメリカの政策を変えようと活躍している」
という類の、ドロドロとした権力渦巻く、
国際政治の本当の姿を知ることも重要になってくるのだ。

最後のまとめてとして、我々日本人にとってシックリ来る
リアリスト的「在り様」を提示して、今回の結論としたい。

"大人の"日本人である「アメ通」読者の皆さんならば、
「清濁合わせ飲む」という言葉はよくご存知であろう。

この言葉こそがまさに、
危険な国際政治の現実(人種問題)と、
その背後にある「抽象度」の高い神学(宗教問題)的な
背景を理解して行動するために必要になってくる、
「リアリスト的心構え」なのだ。

(おくやま)

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さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。