・バックナンバートップ

日本の国益を考える
無料メルマガ「アメリカ通信」

・リアリズムの話をしよう





地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年7月20日 僕は武器としての「リアリズム」を配りたい

前回はクラウゼヴィッツの「軍事的天才」
という概念を引き合いに出しながら、
戦争のように混沌としてくるこれからの世界で生き残っていくには
「正しい判断力」を身につけることが重要だ、

という話までした。

その具体的な方法の第一として、
「思考の抽象度を上げること」をご紹介したわけだが、
これに以外にも「正しい判断力」
を身につけるやり方はもちろんいくつかある。

今回は、いつもの「アメ通」とは形式を変えて、
先週から引き続き、「正しい判断力」を身につける方法を
更に読者の皆さんと考えてみたい。

まず最初に列挙してしまうが、判断力を上げる方法としては、
「抽象度を上げる」を含めると全部で6つある。

------------------------------------
■「正しい判断力」を得る6つの方法■

(1)思考の抽象度を上げる(先週既出)

(2)経験を積む
(3)メンターを得る
(4)メディアへのアクセス
(5)データ分析
(6)神との対話
------------------------------------

それでは(2)から順に説明してゆこう

---------------------------------------------------
▼(2)正しい判断力が身につくまでひたすら経験を積む▼
---------------------------------------------------

これは一種の"ギャンブル"とも言えるが、
とにかく体験を重ね、ひたすら経験値を上げる、
という方法である。

そして失敗をものともせず、とにかく体験し続けることで、
何が「正しい」判断で、何が「間違った」判断なのかを、
誰にも教わらずに、自分の体に刻み込んでいくのである。

このやり方はやる気と行動力にあふれる
バイタリティーのある人間にとっては、
最もしっくりと来る方法かもしれない。

なぜならば、あくまでも自分の体験がベースなので、
自分を信じてひたすら突き進めばいいだけだからである。
そして身についた判断力は「一生もの」になる。

しかし、このやり方は凡人には、あまりお勧め出来ない。
この方法は、まず一定以上の体験をこなす必要があり、
それ相応の時間がかかるのだ。

これは拙訳『戦略論の原点』の中でワイリーが提唱している
「累積戦略」の効果の現れ方と同じで、
どの時点でその「正しい判断力」が自分の身につくものなのかが、
明確な兆候として、わかりずらいのである。

最小の体験で最大の効果を狙いたいところなのだが、
このやり方はやみくもに突き進むようなところがあるため、
無駄な行動が多いようにも思える。

もちろん体験し続けるうちに
自然と判断力が身につくのかもしれないが、

時には取り返しのつかない大失敗を犯してしまう危険もある。

人生はそれほど長くはない...。
これが冷酷な事実であることを考えると、
この方法はかなりリスクが高いやりかたとも言える。

-------------------------------------------------------
▼(3)信頼できる先生やアドバイザーに判断してもらう。▼
-------------------------------------------------------

いわゆる「メンター」のような存在を味方につけて、
その人に徹底して教えを請うというものだ。
いいかえれば、「自分」の判断力よりも、
「信頼できる他人」の優れた判断力を活用する、

ということである。

このやりかたのメリットは、
基本的に「第三者」の視点からの判断なので、
客観的かつ冷静な判断をしてもらえるという点だ。
しかもこの「先生」の眼力が本当に優れているならば、
あなたは大きな恩恵を得ることができる。

更に、この「先生」が「ロールモデル」(手本となるべき人物)
足りうる「大人物」であったという幸運に恵まれた場合、
そのアドバイスを聞いているうちに
「この先生だったらこう言うだろうな」という、
その優れた視点から、自らの判断を下せるようになる可能性がある。

ところがこの「メンター」型手法が問題となるのは、

その判断に過度に依存してしまうような場合や、
何らかの理由で、メンターの存在を失ったような場合である。
いずれもそのアドバイスへの依存度が高すぎるために、
その人物がいなくなってしまうと、
今度は自分で何も判断できなくなってしまうからだ。

実は、この(3)の方法にはより根本的な問題がある。

メンターの判断の質を見極めるには、
選ぶ側本人の判断力が必要となる、という矛盾である。
要するに、良きアドバイスを得られるか否かは
あなたの判断力次第なのである。

判断力が自分になければ判断力のある先生を選べない。
なんとも、身も蓋もない話なのである。

---------------------------------------
▼(4)本やメディアの意見を参考にする▼
---------------------------------------

この方法であれば、現在生きている人だけではなくて、
昔の偉人などのアドバイス(?)をも参考にすることができる。

生身の人間から何かを聞き出す、ということではないので、
自ずと得られる情報の質や量に制限があるとは言え、
積極的に自分で疑問や仮説を設定する必要があるので、
膨大な情報の海の中から真珠を見つけるような
「選別眼」や「分析力」も同時に身に付くというメリットもある。

更に、セレンディピティやシンクロニシティが発生することで、
学際的な知識を得て発想力が拡がる、という副時的な効果も期待できる。

この方法のデメリットとしては、
当人のスキルにより情報の検索/収集の効率が上下するし、
客観性の劣る偏った情報を集めがちになる、などが考えられる。

更に大きな問題は、
あまりに情報過多となってしまい
どの情報が「正しい判断」を与えてくれるのか、という点について、
当の本人が、判断できなくなってしまうことだ。

例えば、
有益なアドバイスをどんなにたくさんもらったとしても、
その助言者の数を増やしてしまうと、多くの場合は、
それぞれが矛盾するようなアドバイスが集まることになり、
むしろ本当に必要な「正しい判断」を
阻害してしまうことになりかねない。

インプットが多すぎて、情報の「便秘状態」が起こってしまい、
肝心のアウトプットがスムーズにいかなくなってしまうわけだ。

------------------------
(5)"統計学"を活かす
------------------------

これは純粋にデータ分析から「正しい判断」を行う
というものである。
これには大きくわけて二つのタイプある。

まず第一に、メディアや公的機関が行う
アンケート調査や意識調査などによって「民意」を図り、
それを判断するための材料にする、というものだ。

ここでは、極力、第三者のバイアスを排除した
客観性の高い「生のデータ」が必要とされる。
現場で起こっている事実をダイレクトに伝えるような情報を、
できるだけ科学的に導き出そうというものだ。

たとえば、政治家が選挙の際に、意識調査などのデータを得て、
自分の選挙区の有権者が求めている政策を打ち出してゆく、
といった事例などがわかりやすいだろう。

ところがあまりこの方法を使いすぎると、
人の意見に左右され、信念や首尾一貫性に欠ける、

「単なる人気取り」と批判される危険が出てくる。
あまりにも外からのデータにたよりすぎて、
自分の判断基準というものを失ってしまうのだ。

2つ目の"統計学"として、
「星占い」などの
やや"怪しめ"なアドバイスを参考にするものがある。

これは誰にも確証を持って判断することのできない、
いわば「非科学的」なシステムによる判断基準ではある。
しかし、実のところ、政界や実業界では、
これを活用している事例がいくつもあることは、
読者の皆さんの中にも聞いたことがある方がいるかもしれない。

例えば、中曽根元首相の回顧録『政治と人生』では、
「占いを判断のためにかなり参考にした」という意味の記述が出てくる。
また、レーガン元大統領が現役時代に
妻のナンシー夫人の占星術のアドバイスを聞いていたことはかなり有名だ。

国家であれ企業であれ、
孤独で重責を背負っているリーダーは、
決して公言することはないが、かなりの確率で、
占いのような「怪しい統計学」のアドバイスを
自分たちの判断基準に使っているのである。

そしてこれらは判断の材料として活用され、
本当に国際政治まで動かす場合もあるのだ。

-----------------------------
(6)神からのメッセージに従う
-----------------------------

"怪しい"といえば、
この方法がもっとも怪しいのかもしれない。

これは、巫女や霊能者や霊媒師など、
いわゆる「神のお告げ」に頼るというものである。
実質的には(3)の「メンター」システムにも近い。

実はこのやり方というのは、
国家レベルでもそれほど珍しいものではない。

たとえば、古代ギリシャでは「神託」として
都市国家の政策判断などで実際に活用されており、
中には、この「神託」を告げる霊能者的な存在が
そのまま国家や集団のリーダーになるといったパターンもある。
いわゆる邪馬台国の卑弥呼などは、この典型的な事例と言える。

このようなやり方は、(5)の「占い」の場合にも言えるのだが、
もともとが客観的に判断されるような
科学的なシステムによって成り立っているわけではないので、
その判断基準の怪しさは否めない。

また、その霊媒師が選択を誤った場合、
それに従ってしまった国家のリーダーの判断が、
その国にどれだけの"災厄"をもたらすかは、
古今東西、いくつもの歴史的実例があったことは、
「アメ通」読者の皆さんならば、
容易に想起できるのではないだろうか。

              -*- -*- -*-

さて、2回にわたって、「正しい判断力」
を得るためのヒントを紹介して来たが、
如何だったであろうか?

真っ当なものから、怪しげなものまで、
ざっくばらんに挙げてみたが、実は、
この他にも皆さんの発想のヒントとなるアイデアはあり、
今後、皆さんには、随時、ご紹介してゆきたいと思っている。

とにかく、私は「アメ通」読者の皆さんには、
真の「リアリスト」になって頂きたいと思っている。

真の「リアリスト」というのは、
「なんでもあり」を認める人間でもある。

我々は、この混沌とした世界で
逞しく生き残っていかなければならない。
そのためには、「正しい判断」がなんとしても必要なのであり、
そのための「武器」が「リアリズム」の教える、
いわば「なんでもあり」の柔軟な姿勢なのだ。

「正しい判断力」を得るためには、
われわれはもっと貪欲になるべきである。
今回、私が説明した様々な方法をぜひとも「実践」して、
自らの揺るぎない判断力を確立してほしい。

(おくやま)

つづきはこちら アメリカ通信バックナンバーへもどる


「戦略の階層」を解説するCD

戦略を語れない人生は奴隷だ

技術を制するのは高度な技術ではない。より上流階層からルール決めには対抗できない。
今こそ日本人は「戦略の階層」を学び、その全体像を理解しなければならない。

詳しくはこちらをどうぞ


このサイトはリアリズムについて学ぶ人を増やすためのサイトです。

さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。