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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年8月17日 尖閣衝突の「前提」を考えよう(その3)

前回までは日中間の懸念である
尖閣諸島での衝突を考えるための六つの「前提」のうちの
「第一」と「第二」を考えてみた。

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▼尖閣衝突の「前提」を考えよう(その1)
http://archive.mag2.com/0000110606/20120805072509000.html
▼尖閣衝突の「前提」を考えよう(その2)
http://archive.mag2.com/0000110606/20120811080504000.html
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ここでもう一度、今シリーズのテーマである
「六つの前提」を提示しておくので、
あらためて全体像を思い出してほしい。

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(1)「尖閣を巡る日中間の衝突は必ず起きる」
(2)「中国は米国との直接対決は出来るだけ回避する」
(3)「中国は"抵抗最弱部位"を狙ってくる」
(4)「中国はあくまでも政治的に動く」
(5)「実は現場レベルでは統制が取れていない」
(6)「日中衝突の展開を厳密に予測することは不可能」
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それでは、引き続き「第三」と「第四」の前提の二つを考えてみたい。

              -*--*--*-

三つ目の「前提」は、「中国は抵抗最弱部位を狙ってくる」というものだ。

この「抵抗最弱部位」というものだが、元々は医学用語である。
これをラテン語でいうと
「ローカス・ミノーリス・レジステンティエ」(locus minoris resistentiae)
となるのだが、これは身体の中の抵抗力が最も弱い部分のことだ。

たとえばケガなどで膝に古傷がある人は、
雨になるとシクシクと痛みを感じるという現象があるが、
これは、その古傷の箇所が「抵抗最弱部位」になっているからである。
人間の身体は、そのもっとも弱い部分から先に疾患が現れるのだ。

私の分析は、中国側の政策レベルでの意図は
相手国の最も弱い部分への浸食である。
つまり、これは「抵抗最弱部位」概念が
そっくりそのまま当てはまるということだ。

このことは、近年、南シナ海で実効支配を進める
中国の動きにも如実に現れていると言えよう。

中国側の動向については、米国も強い関心を示しており、
たとえば、二〇〇六年に発表された
「四年ごとの軍事見直し」(QDR)では、
アメリカが今後直面するであろう脅威を、
以下のような四つのタイプにわけて説明している。

(1)非正規型(テロやゲリラなど)
(2)壊滅型("ならず者国家"の崩壊/大量破壊兵器の流出など)
(3)混乱型(米軍の弱点を重点的に突いてくる攻撃)
(4)伝統型(旧ソ連のような新たな軍事大国の出現)

そして、中国から脅威はこの中の(3)の「混乱型」であり、
具体的にはサイバー攻撃や通信衛星の破壊など、
あくまでも米軍の弱点を突いてくるというのだ。

具体的には、中国は低コストで最も効率よく
効果を発揮することを狙っており、
しかも「破壊」よりもむしろ「機能のマヒ」を狙った作戦で
攻撃してくるものと見込まれている。

つまり、中国は「非対称戦」を仕掛けてくるという想定である。

しかもこのような戦い方を、
中国自身が「暗殺者の棍棒」(assasin's mace)
という名称で呼んでいるくらいなので、
このような「想定」は、
アメリカの一方的な思い込みでは決してない。

二〇一〇年九月に尖閣諸島沖で
日本の海上保安庁の船と中国の漁船の間で起こった
衝突事件からも暗示されるように、
民間人や民兵(便衣兵)などを先鋒とする、
非正規的な「低劣度」の戦いを
中国側が仕掛けてくることも想定できるのだ。

自衛隊でも、武装した漁民が尖閣を占拠する
というシナリオの奪還作戦を図上演習しているらしいが、
これらもすべて相手の弱い部分(抵抗最弱部位)へ浸透する
という戦術に対する対抗策であると考えれば、
きわめて納得がいくものだ。

              -*--*--*-

四つ目は、「中国は極めて政治的な手段を使ってくる」というものだ。

政治でとりわけ重要なのは「正統性」(レジティマシー)である。
歴史的にみても、自国内ですら血みどろの争いを演じてきた中国人は、
内外に対するこの「正統性」の確立についての感覚が、
日本などよりもはるかに鋭い。

典型的な例が、歴史問題である。

中国はこれを強調することで、実は、中国こそが戦後の世界で
最も植民地主義的な政策を周辺地域(チベッとや満州地域など)
に押し付けていたという事実を隠している。

「自分たちが植民地主義の被害者であり、日本はその加害者である」

という構図を描きつつ、
ひたすら自分たちが弱者であるかのように宣伝して、
自国側に「正統性」があることを強調するのだ。

たとえば、私が下記のブログエントリーで紹介した
中国寄りの識者の見解では、
「日本の植民地支配」というコンテクストを強調しつつ、
日本の尖閣領有には「正統性」がないということを論じている。

▼尖閣諸島:中国側の識者の視点:『地政学を英国で学んだ』
  http://geopoli.exblog.jp/18790754/

このように、中国は極めて「政治的」な計算の上で、
国際世論に自分たちの「正統性」を訴えかける戦術を用いる。

そして、意外に思われる読者の方がおられるかもしれないが、
極めて残念なことに、欧米メディアですら、
中国のこの狡猾な策略に乗せられてしまっていることが多々ある。

国家間の政治というものは、軍事力を中心とした
「ハードなパワーの争い」という一面も確かにあるが、
特に近年では、「政治宣伝戦」という要素が増々強くなってきている。

このような危険なビジネスが展開される世界で
我々日本人は、このポイントを強く認識しておかなければならない。

そうでないと、いつまで経っても外交で現場での
日本側の主体的な発信力は上がらず、
交渉相手から足元を見られ、
常に外部要因に振り回され続けることになってしまうからだ。

              -*--*--*-

さて、このまま残りの二つを論じてゆくには、
今回も紙面が尽きてしまったので、
次回も引き続き「前提」の最後の二つを論じることにしよう。

(5)「実は現場レベルでは統制が取れていない」
(6)「日中衝突の展開を厳密に予測することは不可能」

この二つについて、読者の皆さんもご自身の頭で
ぜひ冷静に「想定」を立ててみてほしい。

(おくやま)

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正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。