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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年8月26日 尖閣衝突の「前提」を考えよう(その4)

これまで三回に渡って考察を続けてきた、
尖閣諸島での衝突を考えるための六つの「前提」
であるが、いよいよ今回が最後となる。

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▼尖閣衝突の「前提」を考えよう(その1)
http://archive.mag2.com/0000110606/20120805072509000.html
▼尖閣衝突の「前提」を考えよう(その2)
http://archive.mag2.com/0000110606/20120811080504000.html
▼尖閣衝突の「前提」を考えよう(その3)
http://archive.mag2.com/0000110606/20120817150505000.html
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まずはおさらいとして「六つの前提」を提示するので、
あらためて全体像を思い出して頂きたい。

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(1)「尖閣を巡る日中間の衝突は必ず起きる」
(2)「中国は米国との直接対決は出来るだけ回避する」
(3)「中国は"抵抗最弱部位"を狙ってくる」
(4)「中国はあくまでも政治的に動く」
(5)「実は現場レベルでは統制が取れていない」
(6)「日中衝突の展開を厳密に予測することは不可能」
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それでは、最後となる
「第五」と「第六」の前提について考えてみよう。

              -*--*--*-

第五の「前提」は、
「実は現場レベルでは統制がとれていない」ということだ。

たとえば「五龍」と呼ばれる組織がある。

これは中国海軍(人民解放軍)とは
別組織の海の法執行機関であり、
日本で言えば、海上保安庁などに当たる
いくつかの組織の総称である。

これらを簡単に見て行くと、

「海警」:世界的にみると「沿岸警備隊」。
「海監」:領海などの海洋権益の確保と海洋調査。
「海巡」:最大の組織。主に海難救助。
「海関」:税関や密輸船の取り締まりを担当。
「漁政」:漁業管理業務を担当。規模は小さいが最近は実力行使も。

となる。ちなみに、
今年三月に尖閣諸島周辺の海域に侵入した上に、
こともあろうに、日本の海保の船に対して
「ここは中国の領海だ、出て行きなさい」
と逆に警告してきたのは、
上から二番目の「海覧」の船であり、
この組織は中国の外交部(外務省)とのつながりが深い
と見られている。

実のところ、これらの組織はバラバラに運営されていて、
北京政府自身も完全にはコントロールできていない。
これらの組織を統合して効率化をはかろうとする動きもあるのだが、
それぞれ独自の権益を持っていて、
統合作業は難航しているという。

さらに問題なのは、北京政府と現場レベルの関係だけでなく、
たとえば、あたかも共産党幹部の意図を無視したかのような
人民解放軍独自の意志に従った動きを見せていることだ。

事実、この前兆は以前から確認されていた。
アメリカのゲーツ前国防長官が中国を訪れた際に、
人民解放軍はアメリカ側の神経を逆撫でするように、
その当日に、第五世代の新型ステルス機と噂される
「殲二〇」(J-20)の試験飛行の様子を突然公表したのだ。

これについては「中国側の恫喝外交だ」
という見る向きもあるようだが、様々な情報を分析してみると、
北京上層部と人民解放軍の間で意思の疎通ができていない可能性が
かなり濃厚である。

今回の尖閣への上陸の件でも、実際に北京の上層部では
「余計な手出しをするな」ともとれるメッセージを発していた
とする見方があり、実際、精華大学国際問題研究所のある教授などは、
中国当局が抗議船の乗組員たちに「突発的な事故は起こすな」
と仄めかした、という指摘までしているようである。

(参考)
▼「石平のチャイナウォッチ」:尖閣抗議船、中国専門家の「意味深発言」
http://archive.mag2.com/0000267856/20120814110148000.html

これはつまり北京政府の上層部も、
「余計な問題は起こしたくない」
という意識を持っているということになる。

既に南シナ海で周辺国と問題を起こしている中国としては、
感情的には「日本許すまじ」と思おうとも、
そこから更に紛争を大きくして
事を荒立てたくないという本音もあるだろう。

              -*--*--*-

最後となる第六の「前提」は、
「ものごとがどう展開するのかは予測不可能である」
ということだ。

これは要するに、これまで私が考察してきた5つの「前提」が、
全て覆されるかもしれない、ということである。

これまで、一般的に予測されてきたような
漁民や民兵の上陸といった低劣度の事案ではなく、
中国がいきなりミサイルを打ち込んできたりする事態も
(かなり少ない確率だとはいえ)想定しておかなければならない。

なぜなら、先程挙げたJ-20の例でもわかるように、
北京の上層部が現場まで統制がとれていなかった場合には、
今回のような事件をきっかけとするだけでなく、
中国国内の権力闘争の影響で、
北京トップの人民解放軍の統制が効かなくなり、
中共政府の意図を超えて、軍の独断で攻撃を仕掛けてくる・・・
ということも決して「ありえない想定」とは言えないからだ。

当然、現在進行形で、中国が南シナ海で展開しているような、
漁船が大量に、百隻単位でいきなり尖閣諸島に押し寄せて来る...
といったこともありえるだろう。

しかし、今回はもう一つの懸案である「竹島問題」
とほぼ同時のタイミングで事が起こったことからもお分かりの通り、
それが現実の世界で、どのタイミングで起こるのか?
ということは誰にも予測がつかないのだ。

              -*--*--*-

以上、今後の尖閣事案における
日中間の六つの「前提」を考えてみたが、
このような前提は、
日本のトップたちが常に意識しておかなければならないことである。

国家間の問題、特に領土問題というものは、
トップがどういう意志をもってものごとに対処するかという
「国政術」にかかってくるからだ。

しかし、それよりも国家の運営にとって、致命的な要因がある。
それは、

日本のトップリーダーの「世界観」や「地理観」は
果たしてしっかりしているのか?

というポイントである。

孫子の言葉に「敵を知り己を知れば、百戦危うからず」
というのがあるのはみなさんもご存知だろう。

今回の尖閣の問題については、おそらく外務省などが
中国の動向について、詳細に情報を分析していたのかもしれない。

しかし、それよりも重要なことは、
日本国として何を為すべきなのか、つまり「己を知る」
ということが出来ていたのか?ということである。

その答えは、現在の野田政権の状況を視る限り、
もはや、私が言うまでもないことであろう。

六つの「前提」は、いわば「敵を知る」ための分析である。
そして、その分析の結果、視えてきた重要な教訓とは、
多少逆説的ではあるが、まず何よりも大切なのは
「己を知る」ということなのではないだろうか。

              -*--*--*-

みなさんもすでにご存知の通り、
香港の民間団体の集団が漁船に乗って、
尖閣諸島の中でも最大の魚釣島への上陸を強行した。

それに対抗するような形で、その数日後、
日本の議員や政治団体の人間が上陸する
ということにまで事態が展開した。

実は、前回の「アメ通」原稿を書き上げた時点で、
最初の事件が勃発したのだが、
その後、私が更に原稿を書き進めていた一週間の間に、
矢継ぎ早に状況が進んでしまった。

数ヶ月前、私は日本のある元大使に
「国際政治に"ありえない"はありえない」
という印象的な言葉を聞いたのだが、
世の中の物事が動き出すときは一気に動くのである。

ここまで数回に分けて、読者の皆さんと共に考えてきた
この「前提」というトピックスの最後に、
改めて皆さんに伝えておきたいことがある。

私の新刊である「武器捨て本」の最後にも書いたのが、
「戦略」を実践するにあたっての大前提となる三つの原則である。

それは、

1.冷静であれ 2.選択肢を持て 3.柔軟であれ

この三つである。
これは、敢えて言えば、「前提の前提」である。

竹島問題から尖閣諸島の問題に至る、
東アジアのホットスポットの情勢を目の当たりにして、
私は、国家のリーダーだけでなく、
我々日本人一人ひとりがこの三つの「大前提」を念頭に置いて
思考・行動する必要があるとの思いを新たにした。

「アメ通」読者の読者の皆さんにも、
ぜひこの必要性を自覚して頂きたい。

それは、この三つの大前提が、
我々一人一人が今後増々厳しさを増す国際/国内環境を
逞して生き抜くための"現実的な"思考方法だからである。

(おくやま)

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さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。