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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年9月27日 米中は激突するのか?融和するのか?

先日、開催した出版記念講演会を始め、
新刊の出版に伴う活動で、少々ご無沙汰であったが、
今週から、レギュラーペースで「アメ通」の執筆を再開させたい。

今回は、読者の皆さんも大いに関心が高いであろう、
尖閣国有化に端を発するとされる、
最近の中国と日本の紛争状態について論じるみようと思う。

「アメ通」の基本的な方針として、今回もこれ以降も、
「どこの日本企業が中国で被害を受けたのか」ということや、
「北京政府がどのような戦術を使って尖閣の国有化をしようとしているか」
というような、細かい現状分析をするつもりはない。

なぜなら、すでに何度も述べているように、
本メルマガでは細かい現場(戦術~軍事戦略)レベルの話ではなくて、
より本質的で「抽象度」の高い、
いわゆる「大戦略」から「世界観」のレベルの部分にフォーカスした分析を
行ってゆくこと、それが「アメ通」の価値の源泉だからである。

※大戦略や世界観という用語の分類については下記拙著を参照のこと
「世界を変えたいなら一度"武器"を捨ててしまおう」
( http://goo.gl/ukAbK )

現在までの中国の動きや大戦略などについては、
学者やジャーナリストのような知識人たちの間でもさまざまな議論が行われてきたが、
これについて一つの参考となる考え方がある。

それは、中国とのつきあい方についての議論には、
大きくわけて二つの「学派」(といっては少し大げさかもしれないが)
がある、というものだ。

これを具体的にいえば、
「パンダ・ハガー」(Panda Hugger)と「ドラゴン・スレイヤー」(Dragon Slayer)
というものである。

              -*--*--*-

「パンダ・ハガー」というのは、簡単にいえば、
パンダのように可愛い中国に
積極的に抱きつきに行くような議論を行う人のことであり、
日本では一般的に「親中派」とか
「媚中派」などと呼ばれる人々のことを指す。

彼らは中国におけるビジネス・チャンスを強調し、
共産党独裁制という政体の不都合に目をつむりながら、
中国が経済的に発展してグローバル経済体制に組み込まれて、
西洋国家との経済相互依存状態が高まれば、
それほど対外的には軍事的な行動は起こせなくなるという点を強調する。

しかも、これからは世界市場は中国なしには成立しない。
だから彼らと組むことは必然であり、
しかも中国経済はこれからも成長するばかりなのだとして、
いわば利益面を強調するのだ。

少しうがった見方をすれば、
つまり「金儲けさせれば彼らはおとなしくなる」
「だからこっちも思う存分中国でお金を儲けさせていただいて、
互いにWin-winの関係を築いていきましょう」ということなのだ。

彼らは、中国という「パンダ」に「ハグ」(抱きつき)しようとするから
「パンダ・ハガー」なのだ。

その反対の立場である「ドランゴン・スレイヤー」というのは、
基本的に中国にたいして厳しい見方をする人々であり、
日本では一般的に「反中派」とか「嫌中派」などと呼ばれることが多い。

たとえば、彼らは中国共産党の独裁体制や人権の無視を問題視したり、
中国国内のビジネス環境の不透明さに対して警戒感を隠さない。

そして、中国がグローバル経済体制に組み込まれても、
経済力の上昇が国力/軍事費の上昇につながり、
それが結果的に対外的に高圧な態度となってあらわれてくる、
という不信感をもっているのだ。

基本的に中国を信頼していない彼らは、技術の流出などを恐れ、
別に中国のマーケットがなくても世界経済はやっていけるとし、
極端な場合には、別の、
より民主的な国への投資の転換などを積極的に勧めたりもする。

したがって、彼らは中国という恐ろしい「ドラゴン」を
退治(スレイ)しようとするから「ドラゴン・スレイヤー」なのである。

もちろんこのような議論の対比は、
その見解の違いを大げさに強調したものかもしれないが、
それでも最近の中国の外交面での態度の変化について、
大きな議論の対立軸を教えてくれるものだ。

そして何より有用なのは、
この議論が今後の日本の国際関係における生き残りを考える上での、
一つの大きな指針を与えてくれることだ。

              -*--*--*-

この「パンダ・ハガー」と「ドラゴン・スレイヤー」の議論は
非常に興味深いものであるが、それでは、
実際に、この議論というのは、どのような形で行われているのだろうか?

一つの例としては、
2010年にアメリカの経済誌である「フォーブス」に掲載されたものがあるが、

▼Panda Hugger Vs. Dragon Slayer
Gady Epstein, 01.29.10, 02:00 PM EST
http://www.forbes.com/2010/01/29/china-google-trade-war-beijing-dispatch.html

これは主に経済的な見地から二つの陣営が
互いに議論しているスタイルのものだった。

もちろん、この記事は典型的なものだが、
実は、この記事よりも以前に、私はかなり高度な知識を持つ
二人のアメリカの知識人のガチンコ対決を読んだことがある。

しかも、私はその討論を読んで大変面白いと感じたために、
かなり以前の話であるが、ある日本の言論誌に、
このガチンコ討論を要約したものを掲載したことがある。

この元ネタは「フォーリンポリシー」という
外交の専門誌に掲載されたものだが、なるほど彼らは、
確かにこの二つの陣営を代表する強力な論客であった。

その議論を行った二人の人物とは、
ズビグニェフ・ブレジンスキー(Zbigniew Brzeziński)と、
ジョン・ミアシャイマー(John J. Mearsheimer)である。

まずブレジンスキーといえば、
現在のオバマ政権の対外政策のアドバイザーをつとめる、
いわば米民主党の外交の重鎮であり、その影響力は、
同じく共和党の外交の長老であるヘンリーキッシンジャーに比肩されている。

彼は古典地政学の分野でも
有名な本をいくつか書いているほどの「タカ派」なのだが、
なぜか中国には非常にリベラル的な見方をすることで有名であり、
今回の対談においても「パンダ・ハガー」としての立場から、
「中国は脅威ではない」という議論を張っている。

一方のミアシャイマーといえば、
長年シカゴ大学の教授を勤める著名な学者であり、
自身の打ち立てた「大国は拡大傾向を持つ」という
強固な国益中心の「リアリズム」の議論を元に、
数々の議論を闘ってきた国際政治の理論家である。

近年は、アメリカの対外政策がイスラエルを支援する
国内のロビー団体のおかげで無駄な拡大を行っていると指摘した
『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』( http://goo.gl/qNgpK )
という本を共著で書いて、国際的にも大問題になった。

ところがミアシャイマー自身は、
このブログの著者である私が翻訳した彼の主著である
『大国政治の悲劇』(http://goo.gl/y1HJo)
という本の中で、まさに「ドラゴン・スレイヤー」という立場から、
「中国は拡大するために脅威となる」という議論を展開していたのだ。

この二人の議論、つまりブレジンスキーとミアシャイマーの討論は、
そう言った意味から「パンダ・ハガー」と「ドラゴン・スレイヤー」
の典型的な戦いなのだが、いま振り返るとこの討論には、
現在の東アジアの状況を考える上で、
非常に参考になるヒントがいくつも含まれていた。

たとえば以下のようなやりとりがある。

              -*--*--*-

ブレジンスキー:
中国は明らかに「国際システム」の中に組み込まれつつあるし・・・
自分たちが世界的に優位になるためには
自国の影響力を慎重に拡大するほうが確実だ、
ということに気づいているように見える。

ミアシャイマー:
中国は、アメリカが西半球を支配したのと同じやりかたで、
アジアを支配しようとするだろう・・・徐々に強力になって行く中国は、
アメリカがヨーロッパの大国を西半球から追い出したように、
アメリカをアジアから追い出そうとする公算が高い。

              -*--*--*-

このように、二人の見解は全く違うのだが、その違いの「前提」を知ることは、
リアリストとして生きて行かなければならない
これからの日本にとっては極めて大事なことであると私は考えている。

そのような想いのもとに、私は今回おそらく日本初の試みである
「専門書解説オーディオブック」(?)というジャンルのさきがけとして、
『大国政治の悲劇』というミアシャイマーの主著(二〇〇七年刊)を、
およそ一時間のインタビュー形式にして解説したCDを発売させて頂いた。

▼『1時間でわかる!ミアシャイマーの理論』CD
http://www.realist.jp/main/weapon-cd.html

このCDの購入者の方にもれなくついてくる「特別レジュメ」の中で、
このミアシャイマーとブレジンスキーの
いわゆる「パンダ・ハガー」対「ドラゴン・スレイヤー」の、
誌上討論の要約を全部掲載している。

なにか宣伝めいた感じになってしまうが、
興味のある方はぜひ参照にしていただきたい。

なぜならこの討論の二人の意見の違いを知ることが、
今後の日本の中国への対応を考える際の大きなヒントになるからである。

(おくやま)

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「戦略の階層」を解説するCD

戦略を語れない人生は奴隷だ

技術を制するのは高度な技術ではない。より上流階層からルール決めには対抗できない。
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このサイトはリアリズムについて学ぶ人を増やすためのサイトです。

さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。