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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年10月25日 日本が生き残るための国際政治学

レギュラーペースでの「アメ通」の執筆を再開すると宣言しつつ、
またしても、配信が滞りがちになってしまい、まずはお詫び致します。

と、冒頭から、巷で話題の某週刊誌のような書き出しになってしまったが、
皆さんのおかげで、「武器捨て本」の発売以来、多くの縁に恵まれ
各方面より取材、講演の依頼等を頂き、慌ただしく活動中である。
※ちなみに、この原稿も秋田の地にて書いている。

「アメ通」読者の皆さんには、いち早くお伝えしたいのだが、
この秋から、とある媒体で新たに連載を始めることとなった。
私が強く提唱している「戦略の7階層」について、
わかりやく、じっくりと説明してゆきたいと思っているので、
連載がスタートしたら、詳細をお知らせするので、ぜひ、お読み頂きたい。

              -*--*--*-

すでに読者の皆さんもご存知通り、ミアシャイマー教授の音声解説CD
( http://www.realist.jp/mearsheimer-cd.html )に続いて、
S・ウォルト教授の「米国世界戦略の核心」( http://goo.gl/hEUo7 )
を解説したCDを制作した。

▼これからリアリズムの話をしよう
 スティーブン・ウォルトに学ぶ 日本が生き残るための国際政治学
http://www.realist.jp/walt-cd.html

翻訳を担当した当人が言うのは多少気が引けるところもあるが、
このS・ウォルト教授の大著は、私が翻訳した数々の文献の中でも一二を争う、
非常に重要な要素を多く含んだ「リアリズム」の理論書である。

この本に書かれている内容を、なんとしても
多くの日本人に知って頂きたいと想い、かなり気合を入れて語った結果、
最終的に、約2時間近い収録時間となる壮大な音声CDに仕上がった。

「米国世界戦略の核心」( http://goo.gl/hEUo7 )の重要性については、
簡単に語れるものでもないのだが、私がこの翻訳本の「解説」として、
まずは、巻末に寄稿したテキストを、お読み頂きたいと思う。

S・ウォルト教授が如何に優れた頭脳を持つ人物であるか、
また、その理論が如何に鋭いものであるか、がよく分かって頂けるはずである。
ミアシャイマー教授の理論ももちろんであるが、
このウォルト教授のリアリズムも、今こそ、我々が日本人が学ぶべき理論である。

ウォルト教授の簡単な経歴の紹介から始まるが、じっくりとお読み頂きたい。

              -*--*--*-

▼ウォルトの経歴と本書の位置づけ

本書はアメリカで二〇〇五年に刊行されたスティーヴン・ウォルト(Stephen M.Walt)
ハーヴァード大学教授による"Taming American Power:The Global Response to U.S.
Primaxy"の日本語版である。ウォルトは国際関係論の理論家としてすでに欧米では非常に
高い評価を受けており、多くの論文を発表しているが、最近発売されたシカゴ大学教授の
ジョン・ミアシャイマー(John J.Mearsheimer)との共著 "the Israel Lobby and
U.S.Foreign Policy"(邦訳『イスラエル・ロビーとアメリカの外交政策』二〇〇七年、
講談社刊)を除けば日本ではあまりなじみがなく、単著の本格的な邦訳はこれが本邦初と
なるため、ここで簡単に彼の経歴と理論などについて多少なりとも解説しておく必要があ
るだろう。

スティーヴン・マーチン・ウォルトは一九五五年生まれで、スタンフォード大学修了の
のちカリフオルニア大学のバークレー校で博士号を取得する。この大学院時代に二〇世紀で
最も重要な国際関係論の理論家と言われるネオリアリズムの重鎮ケネス・ウォルツ
(Kenneth N.Waltz)から論文の指導を受けており、このウォルツの三大弟子の一人とし
て名高いのがこのウォルトである。その後、プリンストン大学で准教授、シカゴ大学では
のちに『イスラエル・ロビー』の共著者ミアシャイマーと仕事仲間となって教授へと昇進。
一九九九年にはハーヴアード大学に移り、二〇〇二年から四年間、ケネディ行政学院の学
部長を務め、二〇〇二年からアメリカの対外政策の「奥の院」ともウワサされる外交問題
評議会(CFR)のメンバーとなった。また二〇〇五年からは全米科学アカデミーの一員
に選出されている。このような経歴からわかるように、ウォルトは国際政治学者としては
超一流のトップクラスの実績を持っている。

リアリストの学者の中でも、ウオルトは「ネオリアリスト」(Neorealist)の重要人物の
一人であるが、何よりもウオルトの名を知らしめることになったのは、『同盟の起源』
(The Origins of Alliances 未訳、一九八七年)で提唱した「脅威均衡理論」である。
この処女作は、その高い内容と斬新な視点が認められ、一九九八年度のファーニス安全保
障関連書賞の最優秀賞を受賞している。

しかし単なる理論家の学者とは異なり、ウォルトはかなり以前から現代アメリカの対外政
策について自分の理論を政策に活かすべく積極的な発言を行っている。冷戦終結時には
「アメリカは永続的な封じ込め政策を行わなければならない」と主張し、イラク侵攻が始
まる直前にもミアシャイマーとともに戦争開始に反対し、ネオコン派の知識人とも大激論
を行っている。

一方では、一流の編集者/執筆者としての評価も高い。数多くの専門誌に「安全保障学」
「戦略学」「国際関係論」などの分野の学派の解説論文を寄せ(これらの論文は欧米の大
学の国際政治学の授業では必読文献)、他にも現代アメリカのリアリスト学派の安全保障
関連書の最高峰と言われるコーネル大学のシリーズ(Cornell Studies in Security
Affairs)の編集者をはじめ、「インターナショナル・セキュリティ」(International
Security)誌などの安全保障関連の有名専門誌の編集顧問としても名を連ねている。

さて、ウォルトがリアリストということは本書にとって重要な意味を持っている。リアリ
ストというのは、えてして「国益が大事だ、国益を増進せよ」と主張する場合が多く、あ
る意味でタカ派。右翼的・保守派と見られがちで、一見するとイラク侵攻を扇動したネオ
コン派と似たような印象もある。もちろんウォルト自身も「国益主義者」であることを明
言しており、そういった意味から保守派と見なすこともできるのかもしれないが、本書の
最大の特徴は、彼が「政治科学者」という立場から「アメリヵは自重せよ」と一貫して主
張している点である。つまりウォルトはネオコンのような過激な右派のアメリカの世界支
配を進めるような主張とは一線を画し、日本ではあまり見られない「右派からの自重論」
を提唱しているのだ。これは「保守派=タカ派」というイメージを持つ我々の前提を根本
からくつがえすような、日本ではなかなか理解されにくい欧米の政治の「ねじれ」であろ。

また、本書のもう一つの目玉は、リアリストの理論以外にも、小国の戦略論など他学派の
論理も大いに取り上げ、縦横無尽に現代アメリカに対する世界の反応や数々の「戦略」
(strategy)を紹介していることだ。このことからもわかるように、本書を書いたウォル
トの狙いは「アメリカのサヴァイヴァルを実現するためにどうしたら良いのか」という部
分に集約されてくるのであり、かと言ってその分析はリアリスト的なものだけにはこだわ
らない、かなり異色な国益論であると言えよう。

これは世界中でも大論争を巻き起こし、日本でも話題となっている『イスラエル・ロビー』
の出版の動機とも関連してくるのだが、私が著者に直接聞いたところによると、本書を書
くきっかけは「外国勢力がアメリカの対外政策を誤らせるような過大な影響力を持っては
ならない」ということにあるのだ。これは両著がもともとは同じ問題意識から出発したと
いうことになるが、ウォルトによれば『イスラエル・ロビー』は本書の続編という位置づ
けになるのではなく、本書はあくまでも原著の副題から想像できるように「アメリカの優
位をどう活かすのか」という、もう少し広範囲な問題をとり扱う意識で書かれたという。

本書はそのわかりやすさとアイデイアの斬新さが認められ、学術的にも高い評価を受けて
いる。ァメリカの二〇〇六年度の二つの学芸賞(アーサー・ロス賞とライオネル・グルバ
ー賞)の最終選考に残ったのをはじめ、本書発売と同時にその要約がCFR発行の「フォ
ーリン・アフェアーズ」誌にも掲載されている。また、本書のもとになった論文も米海
軍大学の機関紙「ナーヴァル・ウォー・カレッジ・レビュー」の最優秀論文賞を受賞し
ている。

(次回に続く)

(おくやま)

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「戦略の階層」を解説するCD

戦略を語れない人生は奴隷だ

技術を制するのは高度な技術ではない。より上流階層からルール決めには対抗できない。
今こそ日本人は「戦略の階層」を学び、その全体像を理解しなければならない。

詳しくはこちらをどうぞ


このサイトはリアリズムについて学ぶ人を増やすためのサイトです。

さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。