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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年11月01日 S・ウォルト教授の「脅威均衡論」

さて、先週に引き続き、ウォルト教授の理論をご紹介したい。

今回ご紹介する内容が、かなりの長文になるが
「米国世界戦略の核心」( http://goo.gl/hEUo7 )
のエッセンスである。

本書が世に出てからかなり時間を経ているが、
昨今の日中間の様々な情勢の推移などを視ていると、
ウォルト教授の慧眼に、改めて驚かされる。

このような世界最先端の頭脳が、
アメリカという国の外交政策にも大きな影響を与えている。
そして、これからは、そのアメリカという国と、
我々は、より厳しいやり取りをしなければならない情勢にある。

このことを認識しつつ、以下テキストをじっくりお読み頂きたい。

              -*--*--*-

■ウォルトの「脅威均衡論」■

ウォルトの「脅威均衡論」は「リアリスト」の学派でも
重要な位置を占めているのだが、ここではこの理論の内
容について、ごく簡単に説明してみたい。

それまでリアリストたちの間で一般的だった「勢力均衡理論」
では、ある巨大なパワーを持つ国家が登場すると、周辺の
国家はその「パワー」を抑えるために同盟を結成するとい
う予測をしていたが、現実を細かく見てなるとそういう動
きが実際に発生していると断言できることは少なく、
この理論では説明のつかない事態も多かった。八〇年代に
博士論文を書いていたウォルトは中東政治の具体例を
研究していた時にこの事実に気づき、勢力均衡理論に
修正を加え、ここでのヒントは「パワー」にあるのではなく
「脅威」にあると主張したのだ。これはつまり、国家は
(特に物質面の)「パワー」ではなく、相手国がおよぼしてくる
(非物質面の)「脅威」(threat)の度合いに対して
バランシングを行うという考え方である。
この論文を本として出版したのが、デビュー作となった
『同盟の起源』である。

ウォルトはこの「脅威」の度合いを上下させる要因が四
つあると言っている。一つ目が相手国の「パワー」(power)
である。パワーには人口や国土の広さ、経済力などが
含まれるが、ある一定の「パワー」のレベルを超えると、
脅威を感じた側の国は圧倒的な力の差を認め、
あえて強力な国にバランシングをしたいとは
思わなくなるのである。

二つ目の要因は、相手国の「近さ」(proximity)にある。
これは人間関係でも一緒で、いくら隣の国のパワーが増大しても、
地理的な距離があればそれほど脅威は感じないものである。
逆に距離が近ければ「軍事侵攻される!」という恐怖を
他国に発生させ、それほどのパワーを持っていなくても、
他国はその脅威を必要以上に感じやすくなるのである。

三つ目の要因として相手国の持つ「攻撃力」
(offensive capabilities)がある。これはソフト・ハード
両面からの攻撃力ということで、ハード面で言えば
ミサイルなどの攻撃兵器、ソフト面で言えばイデオロギー
や社会制度などが対外攻撃につながりやすいものとして挙げられる。
周辺国はこの二つの攻撃力に対しバランシングしよう
とする気が起きやすいのだ。つまり、軍事バランスが
攻撃兵器や制度などに有利に傾いていると戦争は起こりやすく、
逆に防御兵器や制度などに有利に傾いていると
戦争が起こりにくくなるということである。

四つ目の要因は、相手国の「攻撃する意図」
(offensive intention)である。攻撃する側が
「やってやるぞ」という意図がミエミエの場合には、
それに対するバランシングが行われやすくなるのである。

この四つの要因の中で特筆すべきなのは、ウォルトが「近さ」、
つまり「地理的」な要素を指摘していることである。
モーゲンソーが一九四八年に出版した名著『国際政治』
(Politics among Nations)で「国力を考慮する際に地理は重要」
としたにもかかわらず、その後の欧米の学界の議論の流れは
「地理」という自然界の法則よりも、当然ながら「社会」
という人間界の法則ばかりが注目され、「国際政治を分析
する際に地理は重要ではない」という風潮ができてしまったのだ。
ところが八〇年代の第二次冷戦時代に入り、ソ連側のヨーロッパ侵攻
を恐れた西側の戦略研究家たちが「なぜ突発的に大戦争が起こるのか」
ということを第一次世界大戦の開始になぞらえて真剣に研究し始めると、
「やっぱり地理は重要」という認識が起こり、それに触発されて
出てきたのがこのウォルトの「脅威の均衡論」だったのだ。

つまり社会科学の「社会構造」(=人間)の面の分析
ばかりしていたリアリズムの研究に、非常に単純化した形ではあるが、
ウォルトが「地理」という「自然条件」を復活させたことになる。
これは、ニコラス・スパクマン
(Nicholas J.Spykman:英語読みではスパークマン)
以来途絶えていた、アメリカのリアリズム研究に、
ミアシャイマー同様、ウオルトが地政学の伝統を復活させたということになる。

この四つの要因を現在の状況に当てはめて考えると、
なぜこれほど圧倒的なアメリカに対して他国からの
バランシングが発生しないのかもうまく説明できる。
それはアメリカが世界の国々に対し直接的な脅威を感じさせていないからだ。

■日本にとって「オフショア・バランシング」の意義は?

では、ウォルトが本書の中で暗示していることに加えて、
「第五章」で提案している「オフショア・バランシング」
という戦略は、日本にとってどのような意義があるのだろうか?
それは安全保障の関連から、(1)アメリカの優位の翳り、
(2)米軍のトランスフオーメーション、(3)日本ヘのバックパッシング、
(4)中国の台頭の四点に集約されてくる。

第一に、本書が発売された数年前の状況と決定的に違っているのは、
圧倒的なアメリカの優位が格段に落ちてきているという点だ。
度重なる海外侵攻や原油高、国内経済の不振などで、
近年のアメリカ経済の好況にはいよいよ本格的に翳りが見え始めている。
このため、アメリカの軍事面での世界からの後退が
避けられない状況になってきていると言える。
ここで確実に予測できることは、アメリカの「自発的な撤退」
という流れもあり得るということだ。それでも完全な撤退を意味するのではなく、
意外にもウォルトが言うような「オフショア・バランシング」
に近い形になるのではないだろうか。この予測を信憑性の高いもの
にしている原因の一つが、米軍の「軍事改革」
(Revolution in Military Affairs RMA)を背景とする、
一連の「米軍のトランスフォーメーション」の動きである。

第二は、第一次湾岸戦争(一九九〇〜九一年)でアメリカの
情報通信を中心としたトランスフォーメーションが大成功を
収めたことから、二〇〇〇年に入ってもブッシュ(息子)政権
の初代国防長官であったドナルド・ラムズフェルド
(Donald Rumsfeld)により空軍を中心に強力に
推し進められた点である。これは軍隊全体の柔軟性と迅速性を
実現させるため軍備の軽量化を行い、海外の基地での米軍の
プレゼンスを最小限に減らすことが狙われている。ドイツや日本
の米軍基地の規模を必要最小限まで縮小し、海外からは
「米軍が我々の土地を不当に占拠している侵略軍」という
悪いイメージも改善できる一石二鳥のメリットもある。

このトランスフォーメーションは地上軍、つまり軍事的な
プレゼンスを海外の人々に感じさせやすい「陸軍」の規模は
大幅に削減している。その代わり、プレゼンスをあまり感じさせない
「空軍」や「海軍」の縮小はそれほどなく、そういった意味から
米軍全体のトランスフオーメーションの動きと
オフショア・バランシングという戦略は、極めて整合性のあるもの
と言える。ソ連という強敵が消滅した今、アメリカはソフト面から
「半撤退」のオフショア・バランシングという試みを、
そしてハード面からは米軍のトランスフォーメーションによる
軍の軽量化が、偶然にも中東での介入の失敗もあり、
同じ方向を目指し始めたように見える。

第三に、アメリカがもしこのような「オフショア・バランシング」
を本気で実行していけば、その延長線上に見えてくるのは
「バックパッシング」もしくは「バーデン・シフテイング」
(burden-shifting)と呼ばれるような、責任転嫁的な戦略へのシフトである。
ということは、日本はアメリカが東アジアで背負っていた荷物を、
今まで以上に肩代わりさせられる破目に陥ることも見えてくるのだ。
このような兆候はかなり以前から水面下に存在していたことは事実だが、
近年になってアメリカがミサイル防衛システム
(これは主に在日米軍施設を守るためのもので、
日本を守るためのものではない)
を日本に売り込み、イージス艦を売却し、F-22のような
最新鋭の戦闘機の売却交渉をしているなど目立った形であらわれている。
さらに、アメリカは韓国にも有事の際の指揮権を二〇一二年までに
譲渡するという決定を下している。日本からの完全撤退は、
駐留費の七割以上を負担している日本の経済状況にもよるが、
地政学的な重要性から見ると、韓国ほどの大きな変化は起こらないはずだ。
在日米軍基地関連の問題解決はまだまだ先の話になるだろうが、
ここでの問題の核心は、オフショア・バランシングから
日本が米軍の関わる戦争に巻き込まれる確率が冷戦時代よりも
さらに高まる可能性がある、というところにある。

第四は「中国の台頭」である。中国とはガス田開発や尖閣諸島
の領土問題など多々残されているが、当面の一番の問題は
台湾危機をおいて他にはない。というのも、この台湾問題が
中東への貿易・石油ルートであるシーレーンの安全確保のみならず、
日米安保による「日米同盟」の存在意義そのものに直結してくるからである。
アメリカが「オフショア・バランシング」の戦略をとれば、
まず地域の国々(日本・インド・韓国など)に勃興する大国(中国)を処理させ、
それができなくなった場合にようやくアメリカが外から助けにくる
という図式が見えてくる。もちろん現在の状態では日本が率先して
台湾を助けに行くということはありえない。

一九九六年の台湾海峡危機のように、まずはアメリカが現場に
直行するかもしれないが、「オフショア・バランシング」が
本格的に実行されるような状況が見えてきた現在では、
台湾危機が起これば日本はアメリカに「バックパッシング」されてしまい、
最悪の場合は日本が中国と直接戦う破目に陥るかもしれないのだ。
そういう意味では、日本はアメリカの戦闘に巻き込まれないように、
しかも中国の問題にはあまり深入りしないような、
賢明な「オフショア・バランシング戦略」を実行することが求められているのだ。

また、本書は中国が戦時に使う戦略だけでなく、
平時に日本やアメリカに対し使っている戦略についても
多くの示唆を与えてくれている。中国がアメリカの人権侵害状況
をあらわすレポートを提出していることは本書でも触れられているが、
何もこれはアメリカだけに対するものではない。

日本の国際貢献の「正統性」の怪しさを喧伝するために
「歴史問題」が持ち出されることなどは、中国側による
「ソフト・バランシング」、もしくは「非正統化」の戦略
として見ることができる。逆に日本が中国国内の人権や
環境問題の被害のひどさを世界に向かって喧伝することになれば、
日本から中国に向けての立派な「非正統化」の戦略の使用になるのである。

また、アメリカのような公式なロビー活動ではないにせよ、
日本もアメリカ、中国、南北朝鮮、台湾、インド、ロシアなどの
周辺国から様々な形を借りて圧力がかかっていることは簡単に類推できる。
日本政府も本書が示している例のように、
外からは軍事以外の方法で反抗されたり、逆に抱きつかれたりして、
そのパワーを操作されているのだ。
また、これはアメリカと日本だけの問題ではなく、
おそらく世界の全ての国家が多かれ少なかれ
このようなジレンマに直面していることも教えてくれる。

以上のように、本書におけるウォルトの戦略のアイディアの数々は、
現代の日本を取り巻く国際政治の環境を考える上で、
驚くほど多くの示唆を与えてくれるものである。

              -*--*--*-

以上である。

私がなぜ今この時期に、ウォルト教授の理論を何としても
多くの人に知って頂きたい、との想いに駆られたのか。
これでお分かり頂けたのではなかろうか。

「米国世界戦略の核心」( http://goo.gl/hEUo7 )は、
まだお読みでない方にはぜひともお手に取って頂きたい。
そして、

▼これからリアリズムの話をしよう
 スティーブン・ウォルトに学ぶ 日本が生き残るための国際政治学
http://www.realist.jp/walt-cd.html

も併せてお聴き頂けば、よりスムーズにこの大著の理解が進むよう、
渾身の力を込めてこのCDを制作したので、ぜひお聴き頂ければ幸いである。

(おくやま)

つづきはこちら アメリカ通信バックナンバーへもどる


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さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。