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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年12月05日 長期安定政権はなぜ必要か

日本の衆議院総選挙は、師走の選挙としては、
一九八三年以来の実に二九年ぶりとなるという。

「アメ通」では、基本的に国際関係や地政学的な視点を論じることが多いため、
日本国内の政治についてはほとんど言及することはない。

あえて、今回の選挙について一つ言うことがあるとすれば、
それはギリシャの政治から得た教訓である。

リチャード・ネッド・ルボウという人物がいる。

アメリカのダートマス大学の教授なのだが、
冷戦時代から「リアリスト」として長年活躍しており、
核戦略をはじめとする安全保障政策について興味深い分析をしてきた人物である。

彼は古代ギリシャの政治についても詳しく、
たとえば、リアリストたちが

「これこそ国際政治のリアリズムを表したものだ!」

としてよく引用する「メロス島の対話」の故事を、
リアリストたちは間違って使っていると批判して、議論を提起した人物である。

簡単に「メロス島の対話」を説明すると、

アテネとスパルタが争っていた当時、
メロス島は中立な立場をとっていたものの、
かつてスパルタと協調関係にあったこともあり、
アテネからの要求に対して、色よい返事をせずにいた。
そこで、強大な力をもつアテネは、メロス島に圧力をかけて
服従を迫ったのだがメロス島は拒否した、というエピソードである。

ちなみにメロス島は、後にアテネが仕掛けた「メロス包囲戦」で負けて
住民の男全員が処刑され、女子供は奴隷にされてしまったという。

ポイントは、この時のアテネとメロス島との間で交わされた
交渉の席での会話である。

「強者と弱者の間では、強きがいかに大をなし得、
弱きがいかに小なる譲歩をもって脱し得るか」

という有名なフレーズが登場し、
これが、国際政治で展開される「権力政治」のエッセンスであるとして、
後の研究者達の共通理解となった。
実際に冷戦時代に多くのリアリスト学者たちがこのフレーズを使うことになる。

ところが、ルボウ教授は九〇年代に入ってからこの故事を詳しく検証し、
ある結論に至ったという。

それは、(ネオ)リアリストたちがいうような「国際システム」の乱れが
戦争の原因になるわけではない、というものである。

ルボウの分析によれば、

実はこの「メロス島の対話」の故事に至る前に、
アテネではペリクレスという有能な将軍が疫病で没している。
その影響もあり、国内の秩序が乱れていた。

この混乱が、後のアテネの軍事・外交面での大失敗にも繋がる。
つまり、「国内秩序の崩壊が(メロス島の虐殺を含む)
熾烈な対外戦争につながっていった」ということなのである。

このルボウ教授の指摘から、われわれは重要な教訓を学ぶことが出来る。

時代背景や細かい状況の違いなどがあることを承知の上で
それでも、敢えて言わせて頂きたのだか、
現在の日本国内の政治状況を視ると、同じようなことが言えるのである。

国内の政治のリーダーシップの喪失状態や、分裂状態を避けて、
すぐにでも、長期安定政権を作り、国内を安定させなければ
最悪の場合、それが対外戦争にまで繋がってしまう。

現在の日本の国内秩序は、
「ペリクレス亡き後のギリシャ」ほど乱れていない、
と想われる読者の方もおられるかもしれない。

しかし、日本は、特に冷戦後において、
長期安定政権をほとんど実現できていない。
つまり、常に国内が不安定、ということでもある。
これが、日本の国際的なプレゼンスの発揮という点で、
非常に大きな損失に繋がっている。

このことが、引いては
戦争につながる可能性があるのではないか...と、私は危惧している。

「アメ通」の皆さんも、今回の総選挙に当たって、
私が今回紹介した、ルボウの指摘を踏まえて、
自らの「選択」の結果というものをよくよく考えて頂きたい。

私は日本にも長期安定政権が誕生してほしいと、
願わずにはいられないのである。

( おくやま )

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さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

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例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。