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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年12月20日 中国の「リアリスト」

さて、今更言うまでもないことなのだが、
「アメ通」では「リアリズム」を標榜している。

この概念を、広く日本人一般に理解して頂きたいと切に願い、
私はこれまでに2つの音声解説CDを企画・制作した。

一つはシカゴ大学のジョン・ミアシャイマー教授の
「オフェンシブ・リアリズム」という理論を解説したもので、
それは、「大国は攻撃的に拡大するものだ」という視点から
国際関係を見る、極めて強固な理論である。

▼1時間でわかる!ミアシャイマーの理論」
http://www.realist.jp/mearsheimer-cd.html

もう一つはハーバード大学のスティーブン・ウォルト教授の
小国がアメリカに対してとっている様々な対抗・抵抗戦略を解説したもので、
このCDの中では、実は日本も、無意識的にではあるが、
その行動が結果的には、戦略的行動をとなっている。
ということななども解説した。

▼これから「リアリズム」の話をしよう-
S・ウォルトに学ぶ 日本が生き残るための国際政治学
http://www.realist.jp/walt-cd.html

この二人の理論は、ともに「ネオ・リアリズム」という系統に属する理論である。

これは、大国間で現在も繰り広げられている
冷酷な大戦略の動きを教えてくれるという意味で、
日本では、これまでマトモに紹介されてきていない
極めて珍しいものであるのではないか、と考えている。

特に、ミアシャイマー教授については、自らの理論に基いて、
「中国は今後アグレッシブに拡大してアメリカを東アジアから追い出そうとする」
という分析を、なんと二〇〇一年の時点で、既に明確に述べている。

そして、その「予言」から十年たった現在、
情勢がどうなっているのかは、もはや私が言うまでもあるまい。
まさにリアリストの面目躍如である。

             -:-:-:-:-:-

ここで、鋭い嗅覚をお持ちの「アメ通」読書の皆さんは、
こんな疑問を抱かれたのではないだろうか。

中国にはミアシャイマーのような
「リアリスト」と呼ばれる人物はいないのだろうか?

そう、実は中国にも「リアリスト」は存在するのである。

つい先日、いわゆる「親中派」と言われることの多い「朝日新聞」に、
ある非常に興味深い人物のインタビューが掲載された。

(http://www.asahi.com/news/intro/TKY201212110762.html)

その人物の名は、閻学通(イエン・シェトン)
精華大学当代国際関係研究院院長。

自らを「リアリスト」と称するだけあり、
「米中衝突は不可避である」と強固に主張している。
その真意はどこにあるのだろうか?

「朝日新聞」に掲載されたインタビュー記事を要約すると
概ね以下のようになる。

===

●中国と米国との競争は不可避だ。今後十年間でどんどん激しくなるが、
軍事衝突というよりは、あらゆる面での競争になる。

●理由は簡単。中国の目標はかつて占めた国際的な地位。
かたやアメリカは世界唯一の「超大国」としての立場を譲つもりはないから衝突する。

●過去の中国は弱かったが、それでも米国のリーダーシップに従ってきたわけではない。

●中国は米国と軍事衝突を起したくない。ところが米国が「アジア回帰」で
東アジアの同盟ネットワークを拡大している。これは中国の孤立化を狙ったものだ。

●アメリカは表向きには否定しているが、それを中国では誰も信じてはいない。

●TPPは政治目的を隠すための経済的な旗印だ。できるだけ多くの味方をつけて
中国との競争に備えるためのものだ。

●アメリカのアジア回帰はたしかに成功している。おかげでフィリピンとミャンマーは
 中国にたいして急に敵対的になった。

●米中両国は「相互信頼」という幻想は捨てて、「信頼なき協力」を追求すべきだ。
 過去には出来たし、そうしなければ「衝突」を管理できない。

●いまの米中間は相手を直接殴り合うボクシングではなく、
 むしろ得点を奪い合うフットボールのようなものだ。激しく争っても武力行使はない。

●米中間は価値観で争っている面もある。古代から中国には
 欧米の近代的な価値観よりも偉大なものがあった。

●たとえば「公平」だが、欧米の「平等」より素晴らしい。「正義」は「民主主義」より高い。
 バスで真っ先に席につくのが「平等」だとすれば、お年寄りに席をゆずるのが「公平」だ。

●たしかに中国国内ではそのような価値観が実践されておらず嘆かわしいかぎりだ。
 いまの拝金主義はダメ。

●いままでは米国の一極支配だったが、これからは中米の二極体制に移行していく。
 経済的利益よりも安全保障の利益が優先されることになる。

●米中だけでなく、日中の衝突も不可避だ。

●米国がまだ中国より強大なのに対し日本は中国より弱い。
 この現実を日本は受け入れないとマズいことになる。

●日本が「アジアの一国」として振る舞えば中国も協力する。
 ただし西欧の一員とみなせば色々と面倒なことになるはずだ。

●尖閣問題では「棚上げ」に代わる新たな原則をみつけるべし。
 ただし今後は新しい政権が互いに出てくるため、
 事態は来年に向けて沈静化する方向にある。

===

読者の皆さんは、これを読まれてどのように思われたであろうか。

彼は国際政治を「冷酷な力と力のぶつかり合い」と見ており、
まさに「リアリスト」というべき存在だ。
ここで私が面白いと思ったのは、彼が中国の大国意識を表現する際に
中国の古代の思想を現代に結びつけようとしている点である。

また、彼の本は英訳もされているので、
興味がある方は目を通して頂くとよいと思う。

▼amazon.co.jp
『Ancient Chinese Thought, Modern Chinese Power』
http://goo.gl/u3LWO

さて、彼のような議論を、単なる「強硬派」として捉えるのは早計である。

彼は「TPP」の問題に関する見解や、「信頼なき協力」という考えを強調するなど、
アメリカと中国の間の互いの「世界観」の違いを指摘している。

つまり、国際関係というのはいわばヤクザな世界で、
お互いのパワーを争いあう場であるという、冷酷な認識をしているのだ。

彼の目から見たら、日本は「弱い国」であり、
いずれ中国とアメリカのどちら(の価値観)を取るのかを迫られることになるという。

中国にも、「リアリズム」を正確に理解して、
実際にそれに基いて提言している知識人が存在するのである。

これが私たち日本人が直面している、
紛れも無い「リアル」な現実なのである。

(おくやま)

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「戦略の階層」を解説するCD

戦略を語れない人生は奴隷だ

技術を制するのは高度な技術ではない。より上流階層からルール決めには対抗できない。
今こそ日本人は「戦略の階層」を学び、その全体像を理解しなければならない。

詳しくはこちらをどうぞ


このサイトはリアリズムについて学ぶ人を増やすためのサイトです。

さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。