・バックナンバートップ

日本の国益を考える
無料メルマガ「アメリカ通信」

・リアリズムの話をしよう





地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2012年12月21日 今、日本に必要なのは「リアリズム」の理解である。

共同管理人の和田です。

前号のアメ通で奥山先生がとりあげた、
12月12日付『朝日新聞』のインタビュー記事は、
非常に重要なので、再度、紹介します。
(http://www.asahi.com/news/intro/TKY201212110762.html)

対談相手は、閻学通(イエン・シェトン)
精華大学当代国際関係研究院院長で、中国の「リアリスト」です。

この記事によると、このまま米国が引かない場合は、
中国との衝突は必至です。
この点は米国のリアリスト、J・ミアシャイマー教授が
10年前に予言している通りです。

米中の競争と衝突は不可避であり、
中国が、覇権を目指すことを諦めることはありません。
それは、
「中国はいかにして米国を打ち破るか」
という点に集中している、今回の記事の内容からも明らかです。 

先日、中国のトップに立った習近平は
「中華民国の復興」を高らかに謳い上げましたが、
これを、閻学通氏の意見と合わせて考えると
やはり、中国は世界覇権を握るまで拡大をやめないでしょう。

周辺諸国との全て国境において紛争を起こし、
チベットとウイグルへの侵攻と虐待、内モンゴルの植民地化、
ロシアとも領土問題の火種は燻り、
南シナ海上においても、各国とやりあっています。

更に、台湾、尖閣だけでなく、沖縄までも、
その野望の射程圏であることが、特に最近ではハッキリしてきました。
そして、なんと中国はハワイまで領有権を主張する
(http://goo.gl/ATxkB)というところまで飛躍しています。
ことここに至っては、彼らのプランの中では
すでに日本の領有をもイメージしているのではないでしょうか。

前号の「アメ通」と重複する部分もありますが、
記事の中から引用しつつ、大事な論点をもう一度確認しておきます。

-----------------------------------------------------------
▼中国は、米国が世界最強の国家だとは認めてきたが、米国に従うとは言っていない。
-----------------------------------------------------------

これは、これまで中国は精神的に一度も米国に屈したことはなかった、
ということでしょう。

かつては世界覇権を握った国ですが(彼ら自身ははそう考えている)、
清朝末期以来の体たらくを、どれほど悔しく恨みに感じていたかがわかります。
現在の中国共産党と当時の清朝とは全く関係がないにもかかわらずです。

この点からすると、日本に対する中国人の復讐心が、
いかに大きいかは日本人が考えるいる以上ではないでしょうか。

-------------------------------------------------------
▼TPPは政治的目的を隠すための経済的な旗印であり、
 出来るだけ多くの国々を味方につけ、中国との競争に備えようという狙いだ。
-------------------------------------------------------

中国側は、TPPのことを、かつて米国などが行った
「ABCD包囲網」のようなイメージで捉えています。

実際のところ、米国は、TPPにより日本市場を狙っているだけでなく、
同時に、中国を封じ込めることを意図していることは確かです。

しかし、日本の保守派のTPP反対論者は
「TPPには軍事同盟的な要素はない」と主張しています。

ここに政治的・戦略的センスの致命的な違いがあります。

--------------------------------------------------------
▼中米両国は『相互信頼』という幻想を捨て、『信頼なき協力』を追求すべきだ。
 信頼というのは長い間の協力の結果として生まれ変わるものだ。
 協力の前提と考えていたら衝突の管理もできない。
--------------------------------------------------------

これなどは、まさしく「リアリスト」の発想です。
現状では、米国の力にはまだ及ばないので、中国側からは敢えて手出しはしない。
しかし、信頼し合っていなくても、お互いに協力はすべきだ、としています。

何のの打開策もないまま「トラスト・ミー」と言ってしまう、
日本の政治家にはこんな腹芸はできないでしょう。

---------------------------------------------------------
▼中国古代思想に言う『公平』は『平等』に勝り、『正義』は『民主主義』より高い。
---------------------------------------------------------

たとえ、「民主主義」ではなくても、中国共産党こそが正義である、という意識です。

シナ大陸では、歴史的に「力があるものが正義」であるとして、
権力体制が変るたびに、前体制の者を皆殺しにし
その文化の破壊を繰り返してきた価値観が、ここに滲み出ています。

------------------------------------------------------------
▼従来は米国の一極支配だったが、これからは中米の二極体制に移行していくからだ。
 米国がまだ中国より強大なのに対し日本は中国より弱いことだ。
 時間はかかるかもしれないが日本はこうした状況に慣れ、
 中国を競争相手と見ることをやめなければならない。
------------------------------------------------------------

最近でも、「G2」といって、中国側から、
今後の世界を米中の「G2」で動かしてゆく、という主張が為されています。

この記事中では、日本は弱いのだから強者である中国に従えと言っているわけです。

強力な「パワー」をもった国家というのは、こういう恫喝を行うことができます。

ほんの30年前には、まだ自転車にしか乗っていなかった中国に、
日本は経済支援を申し出て、今日まで、その発展に尽くしてきました。
しかし、そもそも倫理観や道徳観の薄いこの「困った」隣国に、
私たちはわざわざ「パワー」を与えてしまったのです。

-:-:-:-:-:-

紛れも無い「リアリスト」である閻学通氏が言う通り、
中国は米国とすぐには争わないが、その力ができたら、
必ず米国の覇権に対して挑戦することになるでしょう。

そして、その時には間違いなく日本も巻き込まれるでしょう。

日本の選択肢は、以下の3つしかありません。

--------------------------------
A,米国から完全に独立し、自主防衛する
B,中国の属国になる
C,現在の体制で米国との同盟をつづける
--------------------------------

Bの中国の属国になるという選択肢は、
チベットやウイグルでの惨状を見る限り、到底、受け入れることは出来ません。

Cの選択肢ですと、米国の属国だ、と言われることは避けられませんが、
中国の属国となるよりは遙かにマシであり、
現にこれまで、戦後70年間、曲りなりにも発展した国家を築くことが出来ました。

しかし、中国が暴発した時に、米国が日本から引いてしまえば、
このCの選択肢は破綻します。そして、その事態はそのまま、
Bの選択肢である、中国の属国になってしまうという悪夢に直結します。

このように考えみると、後は論理必然的に、選択肢はAとなります。
憲法を見直し、再軍備することも含めた自主独立です。
その上で、米国との関係を主体的に再構築・強化したのち、
日米で中国の野望を抑え込むしかありません。

-:-:-:-:-:-

米国の「リアリスト」達は、中国の膨張も、
さらに、日本の再軍備すらも予測しています。

そして、今回の「朝日新聞」の記事で明らかになったように、
中国の「リアリスト」も、米中の衝突を予測しています。
そして、日本は中国に付くのか?それとも中国につくのか?
と、暗にその選択を迫っているわけです。

あとは、私たち日本人自身がどう考えて行動するかです。

読者の皆さんは、もうお分かりだろうと思います。

そうです。私たち日本人も「リアリスト」になるより他ないのです。

(共同管理人:和田)

つづきはこちら アメリカ通信バックナンバーへもどる


「戦略の階層」を解説するCD

戦略を語れない人生は奴隷だ

技術を制するのは高度な技術ではない。より上流階層からルール決めには対抗できない。
今こそ日本人は「戦略の階層」を学び、その全体像を理解しなければならない。

詳しくはこちらをどうぞ


このサイトはリアリズムについて学ぶ人を増やすためのサイトです。

さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。