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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2013年01月09日 「シェールガス革命」に注目せよ!

遅くなりましたが新年あけましておめでとうございます。

すでにご存知かもしれませんが、正月早々体調管理の失敗でカゼをひきまして、
平成25年の正月をほとんど寝て過ごすことになってしまいました。(苦笑

その間に本メルマガの共同管理人である和田さんに
がんばって記事を書いていただいたわけですが、
いよいよ今回からようやく私の執筆が復活します。

ということで新年一発目の話題は、なんといっても昨年から取りざたされている、
シェールガスが引き起こしている地政学的な変化について書かれた記事の紹介から。

以下はアメリカのStratfor
(http://www.stratfor.com/weekly/geopolitics-shale)
というサイトの無料版からの記事の要約です。

ここでみなさんに覚えておいていただきたいのは、このようなトピックというのは、
「戦略の階層」で言えば、世界中の国家にとっての「大戦略」のレベルに相当する、
きわめて重要なトピックであるということです。

なぜなら、これは国家にとっての生死をわける
「資源の配分」を左右する変化を引き起こすからです。

ちなみにこの記事を書いたロバート・カプランという人は、
私が翻訳した『インド洋圏は、世界を動かす』の原著者でして、
最近とくに地理の重要性について積極的に発言を続けている、
アメリカ政府とも非常に近い関係にある元ジャーナリストです。

まずは論より証拠、実際の文をお読み下さい。

===

シェール革命の地政学
by ロバート・カプラン

●高級メディアによれば、将来の外交問題は主にアイディアを中心に争われることになるという。

●倫理道徳面での人道介入、ヨーロッパを負債から救うための為替相場の理論、
 それに東アジアにおけるナショナリズムの勃興や、
 同時に起こりつつあるコスモポリタニズムなどがそれである。

●いいかえれば、将来の世界は博士号論文で論じられているような
 「アイディア」によって決定されてくるということだ。

●二〇世紀の歴史でもわかるように、共産主義、ファシズム、人道主義
 のようなイデオロギーは、たしかに強力であった。

●ところが別の真実も存在する。地理や環境のような非人間的なものも、
 人類の未来を決定する力をもっているからだ。

●アフリカが貧しかったのは港に適した場所や遡上できる川が少なかったことにあり、
 ロシアが恐怖心に覆われているのは大規模な土地が侵略されやすかったからだ。
 ペルシャ湾岸地域のモスクが豪華なのは、アイディアではなく、
 地下に大量の天然資源が眠っていたからだ。

●おわかりだろうか。知識人というのは変えることができるものばかりについて考えるものだが、
 すでに起こってしまったほとんどのことを変化させることはできないのだ。

●岩の中に天然ガスを抱いているシュールについてもそうだ。ここから取れるガスは、
 ポスト産業社会で新しいエネルギー源になるとみられており、
 これを保有する国は二一世紀において優位に立つことができよう。

●この点において「アイディア」というのはほとんど意味をなさないのだ。

●私が記事を書いているこのストラトフォーというサイトは、
 この問題についてかなり詳しく分析しているが、
 以下はこのサイトの分析に影響を受けて書いた私の独自の分析である。

●では誰がシェールガスを持っていて、その事実がどのように地政学を変化させるのか見てみよう。
 なぜなら世界の未来は、誰の地下にそれが眠っているかで影響されるからだ。

●まずアメリカには大量の埋蔵量がある。テキサス、ルイジアナ、ノースダコタ、
 ペンシルベニア、オハイオ、ニューヨークなどのそれぞれの州にある。
 そのおかげでアメリカは21世紀のエネルギー大国になるだろう。
 とくにメキシコ湾周辺のテキサスとルイジアナ州は豊富だ。

●西半球ではカリブ海周辺が開発の中心となるだろうし、
 これは二〇一四年のパナマ運河の拡張でさらに進むことになる。

●同時にメキシコがシェールガスのマーケットとして有望となり、
 しかもアメリカとの国境付近にあるシェールガス田を開発できてくれば、
 メキシコは隣接するテキサス州との経済関係が密接になってくるはずだ。

●これはロシアにとってはあまりよいニュースではない。
 ロシアは現在ヨーロッパにおけるエネルギー超大国であり、
 天然ガスを西側に送ることでヨーロッパ中央、とくに東欧において政治的な力を持っている。

●しかしロシアの埋蔵しているガス田の多くは、
 開発が高くつくことになるシベリアの一部に存在している。

●現在のロシアにとっては、ヨーロッパではライバルはいないのだが、
 もし将来アメリカが同じような値段でヨーロッパに
 シェールガスを売り込むことができるようになったらどうだろう?

●アメリカがヨーロッパにガスを輸出するには障害がある。
 液化施設をメキシコ湾に建設して大西洋を渡って運搬し、
 さらにはそれをまたヨーロッパでガス化しなければならないからだ。
 もちろんこれには大量の投資が必要になる。

●それでもアメリカがヨーロッパに液化されたシェールガスを
 ヨーロッパに輸出できることになると、ロシアへのエネルギーの依存度が減る。

●これによってヨーロッパの地政学は多少は変化する。
 天然ガスはロシアの政治的ツールとしてはもう効果を持たないものとなり、
 むしろ純粋に経済的なものとなりうるはずだ。

●ロシアに頼らなくても良いことになると、中・東欧は確実に独立することができるようになる。
 これは長年この地域の知識人たちに理想として望まれてきたことだ。

●これはとくにポーランドの場合に当てはまる。ポーランドには
 かなりシェールガスの埋蔵量があるとされており、もしこれが正しいとすれば、
 いままで天然の要害のなかったこの国が
 21世紀の軸足国家(pivot state)や中流国家になることができよう。

●それにたいしてアメリカはどうかというと、エネルギー源としての中東の石油
 (天然ガス田を含む)からはある程度解放され、サウジにたいする利害を失ったとしても、
 ポーランドを友好国として強化することに集中できる。

●もちろん莫大な量をかかえるアラビア半島、イラク、イランの
 石油・天然ガスの供給源としての存在は今後数十年間も変わらないだろう。

●ところがシェールガス革命は世界の炭化エネルギーの供給源と配分を複雑化させ、
 その結果として中東は、いままでのような優位を保てなくなるはずだ。

●オーストラリアにも大規模な天然ガスの埋蔵量があることが確認されていて、
 もし、その液化施設によって東アジアへの最大のエネルギー供給国になる可能性が
 (実際はコストを大幅に下げなければならないためかなり難しいと思うが)ある。

●オーストラリアはアメリカにとって英語圏における最も信頼できる
 軍事同盟国として台頭しつつあるため、この二つのエネルギー生産国の同盟関係は、
 将来のアジアにおける西洋諸国の影響をさらに固めることにもなる。

●こうなると「アメリカ後の世界」というものは全く実現しないことになる。

●カナダの地政学面における台頭ーこれも天然ガスと石油による―も、この流れを強化するものだ。
 アルバータ州に莫大な量の天然ガスがあるが、これはBC州までパイプラインで運ばれ、
 そこで液化されて東アジアに輸出される可能性がある。

●またカナダの東部も、米国との国境付近に
 新しくシェールガス田が発見されたために利益を得ることになる。
 つまりこの新しいエネルギー源の発見は、北米のこの二カ国をさらに近づけることになり、
 同時に北米とオーストラリアのつながりも世界の舞台でそのつながりが強化されることになるのだ。

●中国にも内陸奥地にかなりの量のシェールガスの埋蔵量がある。
 国内法による規制も緩いために、北京政府が採取のために土地を接収して
 インフラを設置するのはたやすい。

●これは中国のエネルギー不足を多少なりとも解消するだろうし、
 内陸開発を進めることで沿岸部だけに偏っている開発を是正することにもなる。

●その逆にシェールガス革命で損をする国というのは、チャド、スーダン、そして南スーダンのような、
 内陸にあって政治的にも不安定な産油国であろう。自国に埋蔵されている分の開発が進むと、
 中国は将来このようなリスクの高い国での開発への意欲を失うかもしれない。

●全般的にいって、シェールガスの到来は地理の重要性を増すことになるだろう。
 つまりどの国が保有しているか/していないかが、国際関係のパワーを決定する一助になるということだ。

●そしてシェールガスは液化された状態で海上輸送できるため、海に接している国は有利になる。

●世界は新しいガス採取のテクノロジーのおかげで縮むのかもしれないが、
 これはただ単に地理の重要性をさらに高めるだけなのだ。

===

いかがでしょうか。

多少長かったですが、ここでミソなのは、このシェールガスの採掘「技術」の変化によって、
以前とは違う場所(地理)の重要性がフォーカスされるようになった、というところです。

つまり現代の「地政学」というのは、
そもそも変化を前提にして考えられているということであり、
この変化には「テクノロジー」が介在していて、
それが国家の「世界観」に大きな影響を与える、ということなんですね。

そして、われわれは、この次に起こるべく
世界中の国家の「世界観」の変化について見定めないと、
日本のみならず、われわれ個人も大損をしてしまうことになってしまうわけです。

では個人のレベルで対処するにはどうすればいいのか。

それについては以下のCDで徹底的に解説しております!

ということで本年もよろしくお願いします!

( おくやま )

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このサイトはリアリズムについて学ぶ人を増やすためのサイトです。

さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。