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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2013年01月22日 中国の弱点「マラッカ・ジレンマ」

(前回よりつづき)

『月刊日本』(2012/11月号)より

■中国の弱点「マラッカ・ジレンマ」

―― アメリカの外交政策の重心は、中東から東アジアへとシフトしつつある。
   これに対して、中国はどのように出ると考えられるか。

奥山

中国はアメリカに追いつくために軍事力を増強させているが、
彼らがアメリカと対等に渡り合うためには、
何よりもまず「マラッカ・ジレンマ」を克服しなければならない。

私が翻訳した、オバマ政権のブレーンの一人である
ロバート・カプランの著書『インド洋圏が、世界を動かす』にも詳しく書かれているが、
中国は石油をはじめとするエネルギー物資の輸入ルートとして
マラッカ海峡に過剰に依存している。

しかし、マラッカ海峡は狭く、簡単に封鎖することができる。
マラッカ・ジレンマとは、このようにマラッカ海峡において
中国が抱える潜在的な脆弱性のことである。

マラッカ・ジレンマから脱却するためには、
マラッカ海峡を通過させずにエネルギー物資を国内に運び入れる必要がある。
そのために中国が目をつけたのが、パキスタンのグワダル港を経由する陸上ルートだ。

パキスタンを経由すれば、インドの前もマラッカ海峡も通る必要がなくなる。
また、多くの中国人がパキスタンを友好国だと考えており、信頼関係もある。
そのため、中国は現在、このグワダル港に莫大な投資を行っている。

しかし、ここには一つ大きな問題がある。
パキスタンの首都イスラマバードに住む人々(パンジャブ人)と、
グワダルに住む人々(シンド人)は民族が異なっており、対立関係にあるのだ。

グワダル周辺のシンド人たちは
これまで何度もパキスタン軍から強い弾圧を受けており、
死者もたくさん出ている。そのため民族主義運動を行っているシンド人たちは、
パキスタン政府が自分たちの権利を踏みにじるような開発を行えば、 
中国から出稼ぎに来る労働者たちも殺し、
グアダル港開発計画を終焉させるとさえ述べている。

また、港の北部から吹き込む大量の砂を含んだ風のおかげで、
すぐに港の底が砂で埋まってしまうという難点もあると聞く。

このような状況を考慮すれば、中国がマラッカ・ジレンマを解決するには
まだまだ時間がかかると言わねばならないだろう。

■日本人は日本が小国であることを望んでいる

―― 翻って日本である。石油を中東に依存する日本にとっても、
   アメリカの中東政策の転換やマラッカ・ジレンマは決して他人事ではないはずだ。
   しかし、日本ではほとんど関心が払われていない。

奥山

地政学では、資源のある場所と、人々の住んでいる場所とをつなぐ通り道が重要となる。
中東から日本へ資源を運ぶルートはこれまでアメリカによって守られてきたわけだが、
アメリカの中東からの撤退が進めば、日本としても何らかの対策を講じざるを得なくなる。

もちろんイランで戦争が起こった場合も同様だ。
しかし、日本政府が何かオプションを持っているようには見えない。

日本では竹島問題や尖閣問題など、「点」としての領土の問題は大きく取り上げられるが、
シーレーンなどの「線」の部分が軽視されがちである。
他国にシーレーンを握られるということは、生殺与奪権を握られたも同然だ。

実際、最近の中国海軍は沖縄本島と宮古島の間の宮古海峡を通過しはじめており、
本のシーレーンの分断を図っている。

太平洋戦争の時も、日本はシーレーンを守ることができずに敗れた。
同じ過ちを繰り返してはならない。

―― 尖閣問題などが典型的だが、日本で行われている議論は、
   アメリカに頼ってさえいれば何とかなるといったものばかりだ。

奥山

冒頭で述べたように、これまでアメリカによって支えられてきたシステムは現在、
崩壊の一途をたどっている。崩壊しつつあるシステムにすがりついていれば、
日本も一緒に崩壊してしまうだろう。

日本が生き残るためには自主防衛の道を探るしかない。
国防を米軍に任せているようではダメだ。マキャベリも述べているように、
国防を傭兵に頼っている国家は必ず滅びる。

もちろん、自衛隊員たちは、
自分たちは命懸けで国を守っていると主張するだろうし、
私もそれを否定するつもりはないが、
自衛隊が米軍に依存していることは厳然たる事実だ。
実際、自衛隊の演習も、まず自衛隊が敵の侵攻を食い止め、
米軍の支援が来るのを待つというシナリオになっている。

―― このような状態では核武装などなおさら夢物語だ。

奥山

核武装するためには強い意志が必要である。
たとえば、インドは核武装に際して、
「インドは核武装に反対である。それゆえ、
全世界が核を放棄すればインドも核を放棄する」
と一貫して主張し続け、経済制裁にも怯まず、ついに核兵器を手に入れた。

日本で行われている議論を見ていると、
そもそも日本人は日本が大国になることを望んでいないのではないかと思えてくる。
核兵器を持ち大国になれば、尊敬もされるが、それだけ責任も重くなる。
多くの人たちは、こうした責任から逃れたがっているように見える。

要するに、今までのようにアメリカの属国でいたいということだろう。

(次回につづく)

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さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。