・バックナンバートップ

日本の国益を考える
無料メルマガ「アメリカ通信」

・リアリズムの話をしよう





地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2013年01月24日 アメリカで唱えられるイランの核武装容認論

(前回よりつづき)

『月刊日本』(2012/11月号)より

■アメリカで唱えられるイランの核武装容認論

―― 2012年7月号の『フォーリン・アフェアーズ』誌に、
  ネオリアリズム学派を打ちたてたケネス・ウォルツによる、
  「なぜイランは核兵器を保有すべきか」という論文が掲載された。
  それは、イランの核武装こそが中東情勢を安定させるという内容であった。

奥山 

それはネオリアリズムの理論から導かれる当然の帰結だ。
彼らの理論を簡潔に述べれば、 
大国がお互い核武装をすれば世界は平和になる、というものだ。

もちろん小競り合いがなくなることはないが、
核兵器による抑止力が働くため、大規模な戦争が起こることはない。

たとえば、同じネオリアリズム学派に属するジョン・ミアシャイマーは、
核武装した島国の大国がたくさんあれば、世界は完全に平和になると述べている。

島国であれば軍事侵攻を受けることもないし、なおかつ核の抑止力が働くからだ。

これは一般的な日本人の感覚からすると納得できないものかもしれない。
それは日本人の考える「平和」と、
ネオリアリストたちの言う「平和」が大きく異なっているからだろう。

ネオリアリズムの理論では、「平和」とは何か、きっちりと定義されている。
それは「戦争の休止状態」のことである。

つまり、力が均衡し、紛争が起こっていない状態のことを「平和」と呼ぶのである。

―― イランの核武装を容認する論文が
   『フォーリン・アフェアーズ』に載ったということに大きな意味があるように思う。
   今後、これがアメリカの国家政策に反映されることはあるか。

奥山

大戦略を学んでいる人たちにとっては、
大国には核武装させたほうが良いというのが常識だが、
実務レベルの人たちはそうではない。

ジョセフ・ナイなどがその典型だが、これまで外交の実務レベルを握ってきた人たちは、
今まで自分たちが進めてきた政策を転換されることを嫌がる。
彼らがイランの核武装を容認するとは考えにくい。

―― アメリカはこれまで、イランの核開発を放棄させるために経済制裁を行ってきた。

奥山

経済制裁を受けたからといって、
核武装を行おうとしている国が核開発を断念することはない。
それは北朝鮮を見れば明らかだろう。

私がイギリスで教わったコリン・グレイ教授は核政策の専門家だが、
彼は常々「核兵器は君に尊敬を与えてくれる」と言っていた。

たとえば、インドが核実験した際、
アメリカはやはりインドに対しても経済制裁を行った。
しかし、アメリカは現在、中国に対抗するためにインドとの関係を強化している。

また、北朝鮮に対しても、彼らが核武装した途端、
それまでの態度を変えてテロ支援国家リストからの削除や重油支援の表明などを行った。

危険な兵器というものは、良くも悪しくも他国に対して畏怖の念を与える。
それゆえ、イランが核開発を断念する可能性は少ないと見た方がいい。

■ユダヤ・ロビー団体もパレスチナを承認し始めた

―― アメリカのイスラエルへの対応も変化するか。

奥山

アメリカ国内では最近、イスラエルを非難する声が強くなっている。
たとえば、今年の3月に『シオニズムの危機』という本が出たが、
この本の著者は、『ニューリパブリック』というややタカ派の雑誌で
編集長を務めていたピーター・ベイナートという人である。

『ニューリパブリック』はユダヤ系の団体によって支えられており、
これまでも親イスラエル的な言論を展開していた。

しかし、彼はこの本の中でイスラエルの国家政策を厳しく批判している。
アメリカはこれまでイスラエルのためを思って多くの支援を行ってきたが、
現在のイスラエルが行っていることは南アフリカのアパルトヘイトと同じではないか。

アラブ人を露骨に人種差別している国を助けることは、
アメリカの理念にそぐわないのではないか。
そろそろイスラエルに変わってもらわなければならないのではないか――。

このように、今日では、かつてイスラエルを擁護していた人たちですら
イスラエルを批判し始めている。

これはユダヤ人批判ではなく、あくまでもイスラエル批判だ。
実際、アメリカ・イスラエル公共問題委員会(AIPAC)という
ユダヤ人最大のロビー団体においても、
パレスチナ国家を承認しようという流れが強くなっている。

また、イスラエルに住むユダヤ人自身が、イスラエルが過去に行ったテロ行為や、
現在行っているパレスチナ政策を批判するようになっている。

ユダヤ人たちの中でもイスラエル国家を見直そう
という機運が高まっている点は、注目すべきだろう。

(次回につづく)

※このメルマガは転送自由です。(ただし出典を残して下さい)

□■□■━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━□□
□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□□

▼S・ウォルトに学ぶ日本が生き残るための国際政治学

このCDは、日本にリアリズムを浸透させリアリスト(学派)をつくる
という大それた目標のためのものです。
タイトルはのんびりしていますが、実は切迫してきています。

リアリスト派は、
アメリカは一極覇権はこれまでも、これからも続けるべきでない。
(そもそもその力もなくなってきている。)
むしろ地域覇権国や友好国を利用して、軍事介入も減らしつつ
世界管理をしていくべきだという勢力です。

太く短い一極覇権でなく、強く長くつづく覇権を目指す勢力です。

リアリズムの泰斗、シカゴ大学のミアシャイマー教授の定義では
経済規模の小さいイギリスやフランスは大国なのに、
日本は大国ではないとされています。

その現実を見ることが必要です。

そして、「現実をみる」とはどういうことなのでしょうか?

それは、日本人の多くが米国の国際戦略を学ぶことで、
米国の動きを予測し、他の東アジア諸国の戦略をも理解し、
日本の安全保障上の危機を悟り、外国との同盟や、
また、軍事衝突も含めた紛争にどう対処するのか。

あくまでもリアルに、
そして、シビアに学ぶということなのです。

今回企画した、S・ウォルト教授の理論を説明したCDは、
こんな方に、ぜひお聴き頂きたいです。

・外交戦略を「善悪」ではなく、「強弱」で見るように訓練したい人。
・国際戦略をビジネスにも応用したい人
・パワーを持った相手に抵抗するための戦略を知りたい人
・日本が無意識に行っている戦略を知りたい人
・政治家を目指す人
・経営者として欧米の戦略を応用したいと思っている人

そして、残念ながら、このような方には必要はないかもしれません・・・

・米国の一極覇権が続き米国が日本を今後も守ると考えている方
・中国の念願である「日米分断」を果たすことはないだろうと考えている方
・米国が経済成長で中国に追いつかれることがなく、軍事費も同様であると思う方

収録内容

▼大著「米国世界戦略の核心」を一時間で理解するための十の質問

1:なぜいまウォルトの理論を理解する必要があるんですか?
2:ウォルトって何者ですか?ハーヴァード大学教授ってやっぱりすごい?
3:本の全体像を教えて下さい
4:ウォルトの理論はあるんですか?どんな「前提」があるんでしょうか?
5:アメリカ以外の国々が採用している「抵抗戦略」を具体的に教えて下さい。
6:日本もアメリカに対して「抵抗戦略」を使っているんですか?
7:アメリカのパワーを利用する戦略
8:この本でウォルトが本当に訴えかけたかったことは?
9:「オフショア・バランシング」ってどんな大戦略なんですか?
10:これを踏まえて日本のリーダーはどう考えればいいんですか?

ぜひ、下記のURLよりお申込み下さい。

http://www.realist.jp/walt-cd.htm

つづきはこちら アメリカ通信バックナンバーへもどる


「戦略の階層」を解説するCD

戦略を語れない人生は奴隷だ

技術を制するのは高度な技術ではない。より上流階層からルール決めには対抗できない。
今こそ日本人は「戦略の階層」を学び、その全体像を理解しなければならない。

詳しくはこちらをどうぞ


このサイトはリアリズムについて学ぶ人を増やすためのサイトです。

さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。