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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2013年01月29日 国家のリーダーは「戦略」を語れ!

共同管理人の和田です。

読者の皆さんは、
安倍首相の「セキュリティダイヤモンド」戦略をご存知でしょうか?

海外の媒体で発表されたこの安倍論文は
奥山先生もブログで取り上げておりますが、
http://goo.gl/Q1oB6
これは、要注目の重要なトピックです。

このような「戦略」論が出てきたので、
私は少し安堵しましたが、
それだけでは安心しきれません。

『戦略の階層』で言うところの「大戦略」のカテゴリーの中には
「エネルギー問題」が含まれます。
読者の皆さんは、白洲次郎のことはご存知かと思いますが、
彼は「日本はプリンシプルのない国」と言いました。
まさに現在は、戦略なき国家の危機です。

-:-:-:-:-:-

最近、シェールガスについて雑誌などによく取り上げられますね。
このシェール革命についてはもっと新聞テレビで報じるべき内容です。
毎年、調査をするたびにその埋蔵量が増加しているようです。

著名な経済アナリストである、長谷川慶太郎氏は、
2011年の東日本大震災の直後くらいの頃から、
「アメリカは原発を維持しつつ、同時にシェールガスと決めて、政策を進めてきている」
と講演していました。

また先週の『エコノミスト』誌も特集を組んでいるくらいで、
今回は、シェールガス革命のインパクトについて簡単に紹介します。

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~シェールガス革命で米国覇権はさらに続く~

・2009年に米国は世界最大の天然ガス生産国になった。そのうち4割がシェールガス。
・シェールガスの掘削技術のおかげで世界の消費量の250年分以上の天然ガスがある(IEA)
・炭層メタンガスも含めると天然ガスの埋蔵量は400~600年分ある
・シェールガスのついでにシェールオイルもでるが、ガスの3-4倍のコストがかかる。
 それでも米国はこのシェールオイルの増産により世界最大の産油国になる。

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さて、みなさん如何ですか?

米国が最大の産油国になるんです。一人勝ちですよ。
"God Bless America"というか、
米国はまさに「神に祝福されている」かのような話です。
現状において、経済でも軍事でも最強である国家に、
更に新たなエネルギー源が出てくるのですから・・・。

しかし、ここで考えなくてはいけないのは、
世界覇権国アメリカの"凄さ"です。

アメリカは、このシェールガス掘削について
20年がかりで調査・研究・開発し、極めて具体的に
「実用」化にしてきたということです。

とにかくやってのけたのか、それとも、幸運だったのか。
いずれにせよ、そこまで持って行ったアメリカという国。

そして、一番重要なポイントは、
リーダー達の「世界観」に始まり、
そこから連なる「政策」や、「大戦略」が凄いのです。

日本のメタンハイドレードなどは話題になるだけで、
ずっと絵に書いた餅の状態ではないか・・・と少し心配ですが、
現実的に、現状ではやはり、エネルギー政策に関して、
日米間では大きな差が開いてしまっています。

もともと石油産業と自動車産業で世界を牽引してきたアメリカは、
ベトナム戦争で泥沼に陥ったあと元気をなくしましたが、
レーガン時代に第一目標であったソ連をついに叩き潰しました。

しかし、国内の石油資源枯渇の懸念に加え、
製造業の分野で日本が勃興したことをうけ、
クリントン時代以降は、産業構造を
製造業中心から、金融やITの分野へと大きく舵を切り大成功しました。
(一旦は株価を上げたことで財政黒字も達成しています)

アメリカは、日本のように、バブルの崩壊や、それに伴う20年不況
といった状況に陥ることはありませんでした。
リーマン・ショックという大事件も起きましたが、
結局、そこからも回復し、ずっと、強い経済を保っています。

そして、2003年からシェール革命がはじまり、
ついに、新たに石油大国に返り咲くのです。

アメリカは、原発もやめるとは言っていません。
ひとつの「選択肢」として、しっかり残しています。

国内で石油生産ができるのですから、
製造業、メーカーも再興するでしょう。

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アメリカはさまざまな問題を抱えながらも
常に政治家が国を動かす、というダイナミズムがあります。
トップの決断と実行のスゴさには、シビれます。
「戦術」レベルは大胆に躊躇なく切り捨てるますが、
「戦略」レベルでは、そう簡単には妥協しないのです。

資源配分の問題、人口や経済の問題を考えるにあたって、
国家としての「グランドストラテジー」は絶対に必要なことです。
そして、『戦略の階層』に当てはめて考えると、
国家の「グランドストラテジー」こそが「大戦略」になります。

例えば、
米国の政治家達は、「資源問題」というものを
常に念頭において「大戦略」を構築して来ました。

国内の石油が枯渇しそうだとなると、
すぐさま、安定供給するため中東に関与し続けました。
国民の血を流し世界からも非難されながらもやめませんでした。

しかし、米国は今後、石油やLNGを輸出することができます。

となると、中東への関与は減らすことができます。
(中東から徐々に撤退し、赤字を減らすことが見えてきました。
これで、財政規律を緩めることも可能です。)

かたや日本はどうでしょうか?

日本が第二次大戦に突入せざるをえなかった理由は、
昭和天皇が仰た通り「石油」です。

日露戦争の時代は、連合艦隊は石炭で動いていましたし、
石炭は国内からも産出できました。
しかし、第一次大戦後はエネルギーは石油に変わりました。

これを知った、当時の連合艦隊参謀の秋山真之は
絶望のあまり、狂って逝ってしまったくらいです。
石油は国内からでないからです。

-:-:-:-:-:-

昭和時代の田中角栄、中曽根康弘は、
二度のオイルショックの経験から、
どんな反対があろうが、断固として原発に取り組みました。
それは戦前の石油の一滴、エネルギーの重要さを知っていたからです。

ここで視点を現在に転じて、
平成の政治家はどうでしょうか?

政治家にしかできないこと。それは外交、国防、エネルギー政策です。
誤解を恐れずいうと、それ以外のことは、
国民一人一人が、自らやるべきやることです。

今の日本には、エネルギー問題について
確固たる「国家政策」はなく、現在は原発を停止したまま、
為替が円安になるように舵を切っています。

これでは、やはり、電気代が大きな負担になり、
メーカーどころか、クリーニング屋やパン屋ですら
ますます厳しい状況になっています。

安倍政権は、これまでの民主党政権よりも
はるかに頼もしいのとは言えるのですが、
正直に言うと、私は、米国の政治家のように、
「戦略の階層」でいうところの、より上の階層から見た
ダイナミックな決断をしていない点が気になります。

日本国の「国家戦略」として
米国のように、一旦製造業を諦めるのか?
原発をやるのか?代替エネルギー開発をやるのか?
メタンハイドレードに取り組むのか?アメリカからLNGを買うのか?

さらに、これからの日本の指針を考えるに当たって、
より重くのしかかるのは、いわゆるシーレーンの防衛です。

日本は、今のところ中東の石油に依存せざるを得ないので、
南・東シナ海の防衛、引いては、東アジアの安全保障から
目を逸らすことは出来ません。
ただ、この点に関しては、冒頭で紹介したように、
安倍論文の「セキュリティダイヤモンド」があるので、
日本国として死守する覚悟であることはわかりました。

この点について更に言えば、戦後の日本の政治家が
防衛・安全保障面において「国家戦略」というもの提唱したのは、
図らずも、岸首相に続いて二人目です。これには驚きました。

しかしそれだけでは、やはり不足です。

「シェールガス革命」により、
米国の中東に対するプレゼンスは必然的に下がるでしょうから、
もはや、日本は、これまで米国がやってきた
中東への介入、関与の肩代わりをせざるを得なくなるのではないでしょうか。

米国が軍を減らすわけですから、費用を出すのか?自衛隊を派遣するのか?
これから、日本は、国家としての非常に重要な決断を迫られることになるはずです。

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これが、現在私たち日本人が置かれている、
冷酷で身も蓋もない「現実」です。

このようなときに、国家としての「大戦略」を決めてない場合、
なし崩しで進むことになってしまうのではないか・・・。
「歴史」に詳しい方でしたら、
そのような事例・実例は、ほんの数十年前に・・・、
すぐに思い浮かぶのではないでしょうか?

読者の皆さんの中には、原発反対の人もいると思います。

ですが、冷静に考えてみると、現状においては、
好む好まざるにかかわらず、
再稼働せざるを得ないように思います。

そして、TPPについても、反対の方は多いと思いますが、
仮に、米国から、低コストでLNGを買えるようになる、
と考えると、これについても、
TPP参加は避けれられないのではないでしょうか。

政治家の資質を評価・判断する際に、
その政治家は、国家としての「大戦略」を、
どこまで貪欲に、そして、冷静に冷酷に追求しているか?

このポイントに私たちは注目し続ける必要がある、
と私は思います。

( 共同管理人 和田 )

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さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

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例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。