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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2013年02月15日 碩学・渡部昇一先生の「戦略の階層」を更に考察する。

共同管理人の和田です。

前回、渡部昇一先生の「累積戦略」について書きましたが、
「せっかくだから、渡部昇一の"戦略の階層"にもふれてください」
と、読者からご意見を頂きました。

戦術面までやると、いくらでもあるので全ては書ききれませんが、
簡単にまとめてみたいと思います。

「戦略の階層」を個人に置き換えた場合、
「価値観の階層」とも考えられます。

「戦略の階層」の構造上、上層概念である
「世界観」、「政策」、「大戦略(ライフストラテジー)」
は、いわゆる『戦略』になり、
下層概念である
「軍事戦略(経済戦略)」、「作戦」、「戦術」、「技術」
はいわゆる『戦術』となります。


渡部先生は、恩師の家に行ったときに
積み上げ上げられた書籍のあるの書斎を見て
「ああ、これだ」と思ったそうです。
また、上智大学の学生時代には、図書館の宿直のような
アルバイトをしていたそうです。
昼夜問わず、自分が読みたい本が手元にある状態を保つ。
このことの重要性を実感し、自分が家を建てる時には、
図書館のように、書籍を所有し続けることができる家にする!
そのように、確信したそうです。

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さて、渡部昇一先生の【 世界観 】は、
知識人として知的生活に生きる、ということでしょう。

【 政策 】としては、
2500年前のギリシャのヒポクラテスの誓いとして、
「医者は知りながら害をなすな」、というのがありますが、
渡部先生はそれに似た感じを受けます。
つまり、
「知識人として自分の積み上げた価値に対して
知的正直であり、誠実であること」なのではないでしょうか。

敢えて、火中の栗を拾うような論争をしているのも、
知的に正直だから、黙ってられないのだと思われます。
日本のためなら大いに戦う姿勢があります。

カトリック教徒としての価値観や
日本人としての価値観がミックスされ、
「保守」として、人間としての価値観が、
偽善を嫌い戦う様子からもわかります。

そして、この知的正直な態度こそが、渡部氏の、
無尽蔵とも言える知力を加速させているように思えます。


【 ライフストラテジー 】として、
書物を購入し保持し続ける、
図書館のような自宅を持つこと、があると思います。

大学を引退したあと、急に論文が書けなくなる教授は
大学の図書館を失うからだ、と渡部先生は指摘しています。
これはどういうことかと言うと、
手元に書物があるかどうか?ということは
知的生活者にとっては決定的であり、
大学(図書館)からの引退が、
即座に「人生戦略」の喪失に繋がってしまうようです。

廃刊になってしまった言論誌「諸君!」で、
渡部先生と激しい論戦を展開した立花隆氏も、
蔵書の山の中で生活されていましたし、
渡部先生の畏友である、谷沢永一氏も、図書館のような
蔵書を保有していました。

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ここまでの上位概念をうけて
【 経済戦略 】として、
どんどん著作を増産していくことや、
講演を行うことなどができています。
以前はTVにも出演していました。

【 作戦 】面として、
渡部先生は、自身のご著書の中で
"井戸を掘る"という表現で、
一つ目の井戸が涸れるまでに次の井戸を掘る
という主旨のお話をしています。

読書や翻訳が知識の源泉だったり、
所得の源泉になっていると思います。

蓄財については、本多静六氏の手法を紹介しています。
経済の考え方については、かのハイエク教授、
健康などについては、白石巌氏、塩谷信夫氏、
二木謙三氏、アレキシス・カレル氏など...

読書法や知的生活、
保守思想家としての自らのあり方、
世界中の古典について素養など、
各ジャンルに渡る、まさに『古今東西』の書籍から
全方面に多数の「作戦」が展開しているのがわかります。

【 戦術 】などでは、
電車に乗らずタクシーに乗り、その間ラテン語を暗記するなど
あります。人間の存在は記憶そのものだという前提があり、
暗記する力は歳をとっても成長しているそうです。
これについては脳、MRIの第一人者のDr.加藤俊徳との対談がありましたが、
Dr.加藤は渡部先生の前頭葉の異常な発達に驚いていたのが印象的です。

ほかにもたくさんの碩学・渡部先生ならではのエピソードがあります。
詳しく知りたい方はぜひ先生の著書を読んでみて下さい。

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渡部先生の生き様から洞察されるポイントは、
やはりここでも、【 世界観 】です。

知的生活を送るという【 世界観 】をしっかりと認識し、
それに基づく【 大戦略 】として、
自らの手元に書籍を保有するかどうか?
という決断を行った点でしょう。

渡部先生のこの判断・決断が、他の多くの知識人との決定的な差となり、
死ぬまでライフスタイルを豊かに貫くことが出来るようになった上に、
経済的な豊かさまでも見事に引き寄せています。

「戦略の階層」が築けなかった学者はろくな論争もできず、
また資料不足で筆を折ったり、確固たる信念もないため
知的正直さも欠如していることを考えると、
渡部先生の「戦略の階層」は見事なものです。

「アメ通」読者の皆さんの、
人生の「価値観」(=世界観)と大戦略を構築するのに
ご参考になればと思い、私が大きな敬意を払っている、
渡部昇一先生のお話をさせて頂きました。


今回お話した、「戦略の階層」につきまして
ご興味ありましたら、以下をご確認下さい。

http://www.realist.jp/strata.html

( 共同管理人 和田 )

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戦略を語れない人生は奴隷だ

技術を制するのは高度な技術ではない。より上流階層からルール決めには対抗できない。
今こそ日本人は「戦略の階層」を学び、その全体像を理解しなければならない。

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このサイトはリアリズムについて学ぶ人を増やすためのサイトです。

さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

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例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。