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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2013年02月22日 日本と中国の戦略のアプローチの違い

おくやまです。

安倍首相が訪米中ですが、今回の彼の目的の一つは、
最近の尖閣問題に端を発する日中間の摩擦について
アメリカの協力を引き出すことにある
というのはみなさんも報道などでご存知の通り。

そこで今回の「アメ通」では、今後十年間は
確実に日本を悩ますことになるであろう
この日中間の紛争に関係するような話を少ししておきたいと思います。

たとえば、最近はこの日中紛争が軍事衝突にエスカレートするのではないか?
と外国のメディアではとくに注目されており、中には「すわ!戦争勃発間近か?!」
という憶測で書かれている記事もチラホラ。

その代表的なものとしては、私もブログで紹介した、
イギリスの大手経済紙である『FT』紙などでは
外交関係を得意とするコラムニストである、ギデオン・ラックマンの、
「日中関係は第一世界大戦前夜だ!」とする刺激的な論文。

・ラックマンの記事の要約
http://geopoli.exblog.jp/19959951/

・それに対するウォルトの反論
http://geopoli.exblog.jp/19984724/

残念ながら、日本の大手メディアではこのような記事は、
ほとんどと言っていいほど報道されておりません。

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もちろん私はこのような「実際に日中が軍事衝突するのか」
という議論を知ることももちろん大事だと思うのですが、
それよりも「アメ通」の読者の方々に知っていただきたいのは、
孫子で飽きるほど引用されている
「敵を知り己を知れば百戦危うからず」という格言。

しかし、われわれ日本人は、とくに日中間の戦略についての
捉え方まで把握できているとは思えません。

ということで、今回は簡潔に、私が以前から提唱している
「戦略の階層」というものを応用して、そこから日中双方に
どのような戦略についての違いがあるのかを見てゆきたいと思います。

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すでにみなさんもご存知の通り、「戦略の階層」というのは、
エドワード・ルトワックとコリン・グレイという現代の二人の戦略家のアイディアを、
私、奥山が融合させて創りあげたものです。

そして、これを今回のような具体的なケースに当てはめて考えてみた場合、
一つの興味深い傾向というか、パターンが見えてきます。

まずそれは、日本と中国の「戦略のアプローチ」が全く正反対であるという事実。

たとえば、中国ですが、戦略の階層からみると、
彼らは完全に「トップダウン方式」で考えており、
そもそも中国は何か、何を目指すべきなのかというところから、
いわば「理念主導型」の考えから、安全保障や大戦略を考えるわけです。

それにたいして、我が国日本は、どう考えても「ボトムアップ方式」が得意なわけで、
あくまでも現場レベルから段々と視点を積み上げて捉えようとします。
そして、より上位の概念から降りてくる、
目標や理念などは希薄なまま、ものごとに対処しようとするため、
いわば「現実対応型」として大戦略を練ろうする傾向が高いわけです。

そうなると「どちらが良いアプローチなの?」
と気になる人もいらっしゃるかもしれませんが、単純にいえばどちらもダメ。

なぜなら、中国は「大戦略」から「世界観」まで、
日本は「技術」から「大戦略」までの、
どちらか一方に極端に偏った戦略のアプローチしかできないからです。

つまり、中国は「上位だけ」、日本は「下位だけ」で、
両方とも非常にバランスが悪いわけです。

長くなったので、この話の続きは次回に。

今回の話題のポイントなった「戦略の階層」という概念ですが、
これでもか!というくらい(笑)実例を出して、
わかりやすく徹底的に解説したCDをつくりました!

→ → → http://www.realist.jp/strata.html

( おくやま )

つづきはこちら アメリカ通信バックナンバーへもどる


「戦略の階層」を解説するCD

戦略を語れない人生は奴隷だ

技術を制するのは高度な技術ではない。より上流階層からルール決めには対抗できない。
今こそ日本人は「戦略の階層」を学び、その全体像を理解しなければならない。

詳しくはこちらをどうぞ


このサイトはリアリズムについて学ぶ人を増やすためのサイトです。

さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

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例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。