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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2013年02月23日 日本と中国の戦略のアプローチの違い --その2

おくやまです。

前回の「日本と中国の戦略のアプローチの違い」の話のつづきを。

さて、前回は「戦略の階層」をネタにして、

1)日中の戦略の捉え方が違うこと、
2)中国は上位の階層だけしかないこと
3)日本は下位の階層だけしかないこと

という3点について述べたわけですが、この分析をさらに進めてみましょう。

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私が、昨年、東京で行った講演会や、
今回発売したCDなどをお聞きになった方は、すでにご存知かと思いますが、
「戦略の階層」では、あらゆる戦争や国家戦略を、

以下の七つのレベルで分析できると説明しています。


【世界観】
【政策】
【大戦略】
---------
「軍事戦略」
「作戦」
「戦術」
「技術」


そして、上の図の一本線で示したように、大戦略から上の三つの階層と、
軍事戦略以下の四つの階層の間には、実は大きなギャップがあります。

私は、この上の三つの階層を【 戦略レベル 】、
下の三つの階層を「 戦術レベル 」 とざっくりと分けております。

さらにいえば、上の大戦略以上のレベルというは、
いわば【 フィクション 】の世界。

戦略というのは、みなさんもお分かりのとおり、
これから予測できない未来の計画を、大雑把かつ抽象的に、
そしてまたは物語やストーリーとして語るもの。

しかし、これらはまだ現実に起こっていない抽象度の高いものなわけですから、
どうしても【 フィクション 】にならざるをえないわけですし、そう批判されがちなわけです。

いや、【 フィクション 】と言えば聞こえはいいですが、
もっとくだけた言い方でいえば、その実態は【 ホラ 】です。

つまり大戦略以上の【 戦略レベル 】の階層を語る人物というのは、
誰しも多かれ少なかれ【 ホラ吹き 】(?!)にならざるをえないのです。

たとえば、冷戦時代に私の先生が専門としてやっていた「核戦略」などというものは、
いいかえれば「核戦争」という、現実的にはあり得ない(もしくは、あってはならない)、
まさにフィクション的で【 ホラ吹き 】」的なシナリオを必ず含まざるを得ないものでした。

ところが、その反対の「軍事戦略」以下のレベルというのは、
どちらかといえば演習などで実際に目に見える形である程度の試験ができる、
いわば「 ノンフィクション 」の世界を扱ったものです。

これは言い換えれば、戦術レベルというのは、
きわめて現実に即した「マジメ」な世界を扱っているレベルなわけです。

簡単にまとめると、【 戦略レベル 】を考えるには【 「ホラ吹き 】な人物が、
そして「 戦術レベル 」を考えるには「マジメ」な人物が必要になってくるわけです。

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さて、ここで話を日本と中国のケースに戻します。

すでに述べたように、中国は、
どちらかといえば上位の【 戦略レベル 】は非常に強いわけですが、
下位の「 戦術レベル 」はほとんど存在しないようなもの。

つまり、彼らは完全なる【 ホラ吹き 】であるといえます。(笑)

それに対して、日本側はどうなのかというと、
下位の「 戦術レベル 」は世界的にも通用するほどすごいのですが、
上位の【 戦略レベル 】は非常にお粗末な現場主義者。

したがって、「ホラの吹けないマジメさん」ということになります。

ここで、この場合はどちらが強いかというと、前回指摘したように、
日中双方とも一方のレベルに極端に偏りすぎなのが問題なわけですから、
どちらも強いとはいえません。

ただし、現在の紛争における「プロパガンダ戦」という性格からいえば、
上位が強い【 大ボラ吹き 】な中国に分がある、ということは言えるかと。

では、戦略を本当に成功させるためにはどうすればいいのか?というと、
中国のような【 ホラ吹き 】の要素と、日本のような「現場のマジメ人間」の両方を、
バランスよく備えることが必要なわけです。

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ここまでの議論から見えてくる日本の課題とは何でしょうか?

これは「戦略の階層」から見れば簡単です。
誤解を受けるのを覚悟で言えば、
現在の日本に必要なのは、「大ボラが吹ける人物である」ということです。

ただし、ただホラを吹ければいいというわけではなく、
そこには抽象度の高い考えや実現の可能性、
それに面白さのようなものがなければいけないと思います。

ところが、日本人というのはバブル以降に、
どうも「マジメ」に小さくまとまってしまった感があり、
しかも、まだ「技術」だけは優秀であるという"傲り"(ヒュブリス)があるために、
逆に、【戦略】として決定的に重要となる柔軟性を発揮できない・・・
ということのように思えてなりません。

結論としては、「戦略の階層は使える」ということなんですが、
日本をこれから引っ張っていくリーダーたちには、
このような階層の考え方を身につけて、
それを問題解決につなげていって欲しい限りです。

→ → → http://www.realist.jp/strata.html

( おくやま )

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「戦略の階層」を解説するCD

戦略を語れない人生は奴隷だ

技術を制するのは高度な技術ではない。より上流階層からルール決めには対抗できない。
今こそ日本人は「戦略の階層」を学び、その全体像を理解しなければならない。

詳しくはこちらをどうぞ


このサイトはリアリズムについて学ぶ人を増やすためのサイトです。

さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

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例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。