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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2013年02月25日 本当に「日本が帰ってきた(Japan is back)」のか?

共同管理人の和田です。

故片岡先生の時代から、現在の奥山さんに至る流れの中で
「アメ通」では、これまでは「経済」に関するトピックは、
あまり取り上げて来ませんでした。

しかし、国際問題や、政治、社会、を分析する上では、
もはや、(と言いますか、ずっと以前からそうなのですが・・・)
「経済」のことを避けて通ることはできません。
なので、今後は、折をみて、
「経済」に関するトピックも積極的に取り上げてゆこうと思います。

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さっそくですが、果たして、実際のところ、
日本の「デフレ脱却」はほんとうに可能なのでしょうか?

今回は、この点をちょっと考えてみたいと思います。

ちなみに、これまで多くの予測を的中させてきた
経済評論家の長谷川慶太郎氏は、

「今後もデフレは続く。戦争があればインフレになる。
しかし、紛争程度であればデフレは続く。
もはや、世界の市場は一体化、フラット化されているからだ」

つまり、平和であればデフレは続く
と、現在の世界情勢を分析しています。

▼消費市場は縮小傾向

日本が「TPP」に参加すれば、物流が活発になり、物価は下がるはずです。
これが消費に転化されればよいのですが、現実的にはどうでしょうか。

かつて、家電の"三種の神器"と言われていた、「白黒テレビ・洗濯機・冷蔵庫」、
"3C"と言われた、「カラーテレビ・クーラー・カー」
そして、"新三種の神器"、「デジタルカメラ・DVDレコーダー・薄型大型テレビ」

など、みんなが欲しい!と思えるような物が時代を経て推移してきました。

ですが、読者の皆さんは、現在、
「本当にこれが欲しい!」と思うようなものがありますか?
たぶん、その答えは私が言うまでもないとは思うのですが、
単にお金があるからといって、それがそのまま消費の活発化になるわけでなく
デフレは続くと思われます。


▼量的緩和の問題点・日銀総裁の人事

量的緩和として大量の紙幣を刷るそうつもりだそうですが、
これを実行するに当っては、
"通貨の番人"たる日銀総裁が、きちっとしたマネタリストの論理
を理解した上で行わないと、コントロール不能となってしまいます。
ですので、誰か日銀総裁に就任するのか?が、
非常に重要な問題となります。


▼量的緩和の問題点・市中におカネが回らない。

実は、既に小泉内閣おいて、「量的緩和」自体は行なっています。
しかし、そのやり方に問題があり、例えば、
消費者ローンや、商工ローン企業を無闇に潰してしまい、
また、銀行の傘下にしてしまうなど、
明らかに"銀行びいき"と言える政策を取りました。

消費者金融業者や商工ローン企業を
スケープゴートにしてしまったかのようですが、
果たして、本当にそれで良かったのでしょうか?

これまでも指摘されていることですが、
日本では、資金を調達する際には、
邦銀の"担保主義"の貸出手法しかなく、
人物本位での貸出はほとんど行われません。
不動産などを基礎にした、担保主義のままです。

リーマン・ショックなど世界の金融危機の際に、
表面的には、日本の銀行は巻き込まれてなかったように見えますが、
実のところは、邦銀は、「新しい金融商品を危険だ」などと見極めた上で
手を出さなかった、というわけではなく、
日本は金融ガラパゴスであり、それまで勉強している金融マンは
邦銀にはいなかった・・・というのが実情だったりするのです。
実際に、邦銀から世界に発売する金融商品はありませんし、
証券の分野をみても、世界に売れるような投資信託はありません。

銀行が中小企業に貸出を行なって、
はじめて市中におカネが回るものなのですが、
現状では、邦銀は貸出を行わず、国債を買うだけという運用を続けるでしょう。
これでは、継続的な経済発展はちょっと考えられません。
いくらお札を刷りまくっても、市中におカネが出回らないのです。

せめて新しい貸出ルールをつくり、貸出ノンバンクを増やすさないと
経済成長路線などすぐ壁にぶつかることでしょう。

先日行われた、民法の大幅改正に挑む法制審議会では、
中小企業への融資に求められてきた個人保証をなくす
という改正案が浮上しています。

これは、企業が借入を行う際に、
銀行が社長の個人補償を求めるのは、
やめさせるべきではないかという議論です。
この点も日本が致命的に遅れている点です。

欧米だけでなく、台湾や韓国ですら、
銀行は、融資に際して、社長の個人保証は過度に要求しません。
その代わりに、企業のビジネスモデルや市場、社長のビジョンを、
銀行の調査/分析、つまり、その"目利き力"で判断して貸出するものです。

▼海外との所得格差はまだ大きい

日本人の所得は下がったとはいえ、国際的にはまだまだ高い水準にあります。
企業が拠点を海外に増設、移転する理由は、
為替の問題ももちろんですが、
低賃金の労働者がいるかどうか?ということが大きなポイントです。

世界には日本の賃金の1/4以下のレベルの国や地域がたくさんあります。
もはや、いくら円安になっても、企業がコストの削減を狙って、
国際化を進めることは避けられないでしょう。
そして、今後、日本人労働者の賃金が上昇はむずかしいだけではなく、
論理的な帰結としては、賃金も「世界水準」に限りなく近づくと
思われます。

日本の人口は減少し続けていますが、
これは、労働人口の減少ということでもありますし、
消費者市場としての魅力も、どんどんと失われています。
これでは、日本企業が海外の拠点を増すということは、
経済的には合理的で、当然の流れです。

▼エネルギー価格の上昇にみる構造の問題

更に、原発稼働停止の影響で、
電気代、燃料費のコストが上昇しているので、
海外の工場が日本に戻ってくるということもありません。

家でガスヒーターを使っている人は今年のガス代は高いですよね。
LNGの価格は、シェールガス革命で世界的にだいぶ安くなりました。
そんな状況にもかかわらず、日本は、米国の7倍もの価格でLNGを買っています。
これは、原発稼働停止という日本状況をみて、
供給元の国々から"足元を見られている"ということでもあります。


「アベノミクス」による円安状態で、石油価格が上昇した結果、
一般の人にとっては、経済効果どころか、
単なる燃料費の上昇になってしまっています。

エネルギー流通構造や国際取引そのものを抜本的に見直さないと、、
国際価格の変動によるメリットが消費者への還元されない
という構造上の問題はいつまでたっても解決されません。

▼「消費税増税」は禁じ手

最後に一点指摘しておきたいのですが、
現在のように株価が上昇しているなどの少々の経済数値が上昇すれば、
政府は、増税を行うと予想されます。

しかし、消費税の増税は、過去の例からも明らかなように、
かなりの確立で不況化に繋がるでしょう。

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読者の皆さんも既にご存知のとおリ、
日米首脳会談のために訪米した安倍首相は

「日本が帰ってきた(Japan is back)」

と言いました。

今回の訪米の大きな狙いは、
日米の安全保障体制の強化を念頭に置き、
その"地ならし"の意味合いとしての
「TPP参加表明」でもありました。

いわゆる「アベノミクス」といわれる経済対策で、
現在のところ「口先介入だけで円安誘導」となりました。
そして、その効果として、国際競争力が回復し、
輸出関連株の株価が上昇しました。

麻生太郎財務大臣は、G20の席上で、
「アベノミクスは円安誘導策でなく、デフレ脱却である」
というメッセージを世界に伝えました。

通貨安戦争を煽ってはいけない、という配慮からですが、
「デフレ脱却」策ということで、その矛先を巧みにかわしました。
安倍首相も選挙時には、デフレ脱却を連呼していましたから、
まずは、いい外交であったと言ってもよいのではないでしょうか。

私自身は、安倍内閣を支持するという立場ですが、
「TPP」への参加において、国内問題をどう認識し、アメリカと交渉するのか?
という認識が一番の問題である、と考えています。

これまでの日本の政治家には、
海外との交渉において、自国に有利になるように
交渉を進めることが出来るタフネゴシエーターがいませんでした。

・「安全保障」分野においては中国と北朝鮮からの危機
・「経済」分野においてはTPP交渉

この二つが目下のポイントです。
アジアの危険度を考えると先延ばしできないとお考えの人は、
現在の政治家に託すしかないのです。
ここに注目して、今後の安倍内閣を見守ってゆきたいと思います。

自分の理想と考える政策がすべて一致する政治家はそうはいません。

創価学会員に対する公明党や、赤旗読者に対する共産党のように、
自分の希望とすべて合致する政治家はいないのではないでしょうか?

自由社会である日本において、国民みんなの価値観が違うわけでしょう。
では、どこで判断するべきか?

その点は、「戦略の階層」で考えていただきたい。
自分の「戦略の階層」と近い「階層」をもつ政治家は誰か?
上位概念は合致するか?
そしてその政治家の実行力はどうか?
その点から考えていただきたい。


(共同管理人 和田 )

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さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

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例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。