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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2013年02月26日 「戦略の階層」をつかってTPPの議論を斬る!

共同管理人の和田です。

昨日の「アメ通」にて、TPP問題について触れてみましたが、
やはり、この問題については、多くの方が関心を寄せているようで、
さっそく、賛否両論、反響がありました。

日本国内で、いわゆる「保守」を自認する人達の中にあっても、
賛成/反対と意見が割れている、この「TPP」問題ですが、
これまで「アメ通」でも何度もご紹介してきた、
「戦略の階層」という概念を活用すると、ここでも、多くのことが視えてきます。

今回は、あえて「TPP賛成」の立場から、
「戦略の階層」というスコープ使って、
この議論を説明してみようと思います。

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まず、「TPPへ参加する」ということは、
日本がアメリカの自由貿易圏に入るということを意味するわけで、
これは、日本と米国は「自由経済」と「法治国家」、「民主主義」
そして、日米軍事同盟という「戦略」や「価値観」を共有できている
ということになります。

これは、日本の安全保障問題に直結しており
日本の国防にとって、大きなメリットとなります。

また、欧州のEUというシステムが典型的ですが、
国家間の大きな枠組みを作りブロック化することで
その地域共通の通商ルールをつくり、商圏をガッチリ構築して、
経済的権益を確保する、というのが大きな流れです。

櫻井よしこ氏、田久保忠衛氏、長谷川慶太郎氏など、
TPP賛成派の論客は、基本的に日米同盟重視派ですが、
いわゆる「アジア共同体」構想などに否定的見解を示している彼らは、
「戦略の階層」でいうところの上位階層の概念、
つまり「戦略」レベルをイメージしているはずです。

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昨日も紹介しましたが、長谷川慶太郎氏の
「戦争ならばインフレで、平和や紛争程度ではデフレは進行する」
というコメントの通りで、現在も中国などからの安価な商品が街にあふれ
デフレは、依然として現在進行形です。
今後も、世界のマーケットがどんどん一体化していくのは明白で、
品質が同等であるならば、当然、価格の安い商品が買われます。

TPP反対論者は、TPP参加によって、
アメリカからの大量消費低コスト商品の流入で、
日本国内市場がデフレになる、と批判しています。

※これは、アメリカのホールセール業態である、
※「コストコ」などを想起すると、わかりやすいと思います。

ですが、現状においても既に中国製品でのデフレは進行中であり、
その点については、どうお考えなのですか?

ということです。

この「中国発のデフレ」を食い止めるための有効な手立てはあるのですか?

ということでもあるのです。

単に反対することは簡単なのですが、
その代替案を出すことが出来ていません。

企業としのユニクロの姿勢には違和感を感じつつも、
現実には、そのユニクロ製の服を買い、
それを着て、"自由貿易の恩恵"を享受していますね?

と言われたとき、TPP反対派はどう反論するのでしょうか。

しかも、TPP反対派は、アジア共同体構想や、
日中韓FTA構想に対しては、表立った反対はしていません。
これは、「隠れアジア共同体信者」であったり、
日中韓FTA信者、ということではないのか?
という疑問に繋がります。

「アジア共同体構想」や、「日中韓FTA構想」に対する疑念は、
話を始めるとまた長くなってしまいますので、今回は控えます。(笑)

もし仮に、彼らが「ブロック化」ということ自体に反対、ということならば、
世界の多くの国々が実質的に経済圏のブロック化を推し進めている状況下で、
それでは、日本一国でどうやって経済成長するのか?
如何なる経済圏をつくって経済を回してゆく方策があるのか?
などの代替案、「戦略」を示すべきであろうと思います。

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日本が、経済的に自由貿易圏に属する、
ということの意味について、"人口減少への対応と経済成長"
という視点から、さらに考察をしてみます。

次々と経済予測を的中させ、根強い指示を得ている
米国のエコノミスト、ハリー・デント氏は、人口動態で経済が予測できるとして、
「人は、45歳前後で、人生のうちでもっと大きな消費を行う」
という説を唱えています。

デント氏の説の通り、団塊世代が45歳に達するタイミングで、
日本ではバブル経済となり、現在の中国の経済成長も、
45歳年齢が分厚くなる年まで伸びてきました。
そして、デント氏は、米国の経済成長も
45歳最大消費者論で、その説を見事に的中させています。

この説に従うとすれば、現在の日本は、
団塊の世代ジュニアが30代後半なので、
今後、5年~10年前後は成長する可能性があります、
日本の人口減少は「すでに起こった未来」なので、
つぎの人口ボリュームゾーンはなく、素朴に考えただけでも、
経済が衰退期に入ってしまうことは明白です。

日本が今後も経済成長を持続させるためには、
もはや、国内マーケットの縮小は避けられないので、
必然的に、"海外のマーケットで日本の製品やサービスを売る"
ということが、これまで以上に重要な課題となります。

現在の日本政府は、事実上、人口を増やす国策をとっていないで、
当然の帰結として、これ以上、内需の拡大は望めません。

TPP参加問題の賛成派・反対派ともに、
具体的な人口増加政策といったものはないようですが、
少なくとも、賛成派は商売として外需を求めて国を開くことを是としています。

それに対して、反対派の見解は、
単なる現状維持ということにはならないでしょうか?
このことは、取りも直さず、経済衰退、縮小を意味する...
ということに思えてなりません。

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冒頭でも少し触れましたが、
TPP参加ということの安全保障面での意味合いも需要です。

一例として、欧州のことを考えてみます。

これまで、ギリシャが何度も財政破綻しかけても、
いつも、結局、ドイツが支え続けているのは、
ロシア陣営に入ると、いろいろ厄介なことになるからです。
イスラム圏である、トルコに対しても細心なケアをしていることも
意味合いとしては同様です。

そもそも、EUというシステム自体が、
実のところ、NATOという軍事同盟と表裏一体で進められたものです。

TPP参加反対派は、TPPという枠組みと、軍事同盟は関係ない
と主張している人が多いように思います。

ですが、現実的な話として、また、古今東西の歴史を顧みても、
通商関係は安全保障の下地をつくるものであり、
政治関係だけでなく、友好的国民感情をも支え育てていくものです。

我々日本人にとって、より身近な話としても、
戦前の「ABCDライン」で経済封鎖され、
包囲され、追い込まれたことを思い出してみて下さい。

軍事同盟と通商条約を考慮せずに、
国家戦略は組立てることはあり得ないのです。
「戦略の階層」的に言えば、
それぞれの階層は一貫して繋がっており、
国家としてのグランド・ストラテジーを構築するには、
そのバランスこそがとても重要なポイントなのです。

TPP参加反対派は、もしかして、
「アジア共同体」と言いつつ、実のところ、
中国との軍事同盟を想定しているのでしょうか?

反対派の人は、まずは、
少なくとも、この点についての見解を明らかにして頂かないと、
その主張の背後がわからないので、
それ以上、建設的な議論が出来ないのではないでしょうか?

※「戦略の階層」でいうところの「大戦略」のゾーンに、
安全保障と通商の相手として、中国や韓国を想定するのか?
それとも、米国をはじめとする環太平洋の諸国を想定するのか?
という問題でもあります。

(共同管理人 和田 )

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技術を制するのは高度な技術ではない。より上流階層からルール決めには対抗できない。
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さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

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例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。