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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2013年02月28日 「戦略の階層」からみた中国の戦略アプローチ

おくやまです。

日本と中国の戦略のアプローチの違いについて、
「戦略の階層」をヒントにして何回かエントリーを書いたのですが、
最近も他に気になるニュースがありましたので、その補足を一つ。

ネットを見る限りではほとんどヒットしないのですが、
最近の報道では、中国がミャンマーの少数部族(シャン族)の麻薬王を逮捕するために、
なんと無人機攻撃を計画していた、というニュースが流れました。

どうやらこの麻薬王は2011年の10月に
メコン川で麻薬を運んでいた貨物船二隻の中国人の乗組員13人の
殺害を指示した疑いがあり、中国当局は麻薬王の行方を追っていたとのこと。

結果的に今年の4月にラオスでこの麻薬王は捕まったわけですが、
とても興味深いのは、中国当局がこの捜索の際に
無人機を使って容疑者を空爆(!)する計画を立てていたということです。

もしこれが実行されていたら、おそらく中国側は最近完成を発表した、
アメリカの「グローバル・ポジショニング・システム」(GPS)や、
ロシアの「グロナス」、ヨーロッパ連合(EU)の「ガリレオ」に匹敵するとされる、
「北斗衛星ナビゲーションシステム」を使ったはずだと見られております。

そして現在人民解放軍は、この北斗システムを構成する16個の衛星を
太平洋やアジア周辺の上空に飛ばして、
軍事演習やパトロールにも活用しているとのこと。

これにはCH-4と呼ばれる中国の最新鋭の無人機を、
尖閣周辺の警戒用として使う予定であることは言うまでないことでしょう。

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さて、このような中国の軍事面での戦略思想を、
「戦略の階層」で考えてみることは可能なのでしょうか?

たしかに、前回までは、中国の世界観だけに偏った、
いわば「理念主導型」のアプローチを、
私は「ホラ吹き型」であると説明してきましたが、
今回は同じ戦略学でも、それとは別の枠組みを使って説明してみたいと思います。

歴史的に見ると、戦略学(strategic studies)における戦略論の発展は、
まず陸戦の理論からはじまりました。
これは当然といえば当然で、あらゆる闘いというのは、
人間が住む場所である「陸上」において展開されてきたからです。

ところが人間がテクノロジーを獲得するに至って、アテネやイギリスのように、
海を越えて船を使って支配する勢力が現れてきました。
これは「海上戦力」、つまり「シーパワー」であり、
この戦い方についての理論も当然の流れとして出てくるわけです。

それを完成させたのが、日本との関係の深い
「シーパワー」論者のアルフレッド・セイヤー・マハンですね

そして第一次大戦になると、今度は戦争で航空機が活用されはじめまして、
「エアパワー」の理論が登場。
第二次大戦を経て冷戦の終わりには、
アメリカがイラクとの湾岸戦争に衛星を活用したことで
「スペースパワー」の理論が注目されます。

そして2000年代に入ると、今度はなんと中国の人民解放軍が、
「超限戦」というアイディアを出して「サイバー空間」を闘いの場として活用するという
いわゆる「サイバー・パワー」の理論が出てきます。

このような発展をしてきた戦略の理論なんですが、
これまでの経緯を踏まえて、それが「五次元」を構成している、
と考えられております。

これを発展してきた順に下から並べると、

サイバー戦力
宇宙戦力
航空戦力
海上戦力
陸上戦力

ということになります。

これが中国の戦略のアプローチとどのような関係があるのでしょうか?

続きは次回に。

( おくやま )

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戦略を語れない人生は奴隷だ

技術を制するのは高度な技術ではない。より上流階層からルール決めには対抗できない。
今こそ日本人は「戦略の階層」を学び、その全体像を理解しなければならない。

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このサイトはリアリズムについて学ぶ人を増やすためのサイトです。

さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

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例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。