・バックナンバートップ

日本の国益を考える
無料メルマガ「アメリカ通信」

・リアリズムの話をしよう





地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2013年03月21日 「累積戦略」とは、いわば「修行時代」のことである。

おくやまです。

前々回のエントリーでは、「累積戦略」が重要であるにもかかわらず、
なぜビジネス・成功本などではあまり詳しく解説されないのか、
ということについて少し論じてみましたが、今回もこの話題の続きを書きます。

まず簡単におさらいですが、前々回のエントリーでは
この理由が大きくわけて三つあり、その第一の理由が、
累積戦略が「見えない戦略」であるからだ、というところまで説明しました。

では他の二つの理由は何でしょうか?

今回はここからお話を始めたいと思います。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:-

第二の理由は、これらの本を書いた著者たちが、
すでに「累積戦略」を当たり前にできてしまっている人たちである。
ということです。

この点は見落とされがちですが、本当なのですから話がやっかいです。

「累積戦略」というのは、言い方をかえれば
「積み重ね」とか「下地」を形成するものであることは、
ここまで読んできたみなさんはよくご存知のことでしょう。

ここで問題なのは、ビジネス書などを書くような、
すでにある程度の成功を収めてきた人たちというのは、
「累積戦略」、つまり、かなりの量の積み重ねを、
知ってか知らずか、すでに相当こなしてきている人たちばかりなのです。

しかし、当の本人にしてみれば、「累積戦略」のポイントでもある、
"ある一定のレベルに達すると、臨界点を迎えて爆発的な力を発揮する"
というメカニズムを全く知らないわけです。

そして、自分が上手くいったのは、
実際のところ「累積戦略」の影響が大きいにもかかわらず、
いわゆる「目標設定」や「仕組みづくり」などといった、
わかりやすくて目につきやすい「順次戦略」のほうこそが、
自分の成功の唯一の原因だ!と勘違いしてしまいがちです。

当然、他の人にアドバイスをする際にも、
「目標設定(=順次戦略)こそが大事だよ!」
と間違って説いてしまったり、書籍などに書いてしまうのです。

また、コツコツと実績を積み重ねてゆく「累積戦略」の
重要性をよくわかっている人でも、その爆発するメカニズム、
私は、それを"創発"と言っておりますが、
この感覚を、上手く言葉で表現できる人は滅多にいません。

ですから、そういう人から出てくるアドバイスというのは、
「続けていればいつかは花が咲くよ」とか、
「誰かがどこかで見ているさ」とか、
ともすれば、ただただ「がんばれ!」と発破をかけるだけ。(笑)

・・・このような笑えない話になってしまうわけです。
これはひとえに、「累積戦略」というものの、わかりにくさゆえです。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-

そして最後の第三の理由。

それは、「累積戦略」が一見すると古くさく見えてしまい、
そこに目新しさがないということです。

しかし、です。
往々にして「本当に大切なこと」というものは、
「古くさ」かったり「目新しく」はないもの。
これは世の中の常です。

ここで一つの例を紹介します。

「メイロマ(@May_Roma)女史による累積戦略の解説」
というエントリーで、最近、私のブログでも取り上げたお話です

その中で私は、
下記の2つのtwitter上の記述に特に注目しました。

====

あのね、ネットでブログ書いたり、
メルマガ書いて金を稼げてる人って、
それ以前に、商用媒体で書いてたり、
仕事で書いてたりして、稼いでた人が多いの。
継続的に稼げる人はね。道具が変わっただけだよ。
料理できない人間がどんな良い包丁持っても無駄だよ。

---

ワシだって商用媒体さんから原稿執筆や調査依頼頂いたり、
本を書く機会を頂いてるわけですけど(同人じゃないぞ、商用ね)
これって会社で事業企画やったり、コンサル時代に調査報告書を
大量に書いたりしたのが下地になってるんですよ。
あの修業時代があったから書くことができる。

▼May_Romaさん連続Tweet:よく考えてみようよ。
       料理できない人が包丁持っても無駄だよ 
- Togetter
 http://togetter.com/li/474058?f=tgtn

▼@May_Roma:Twitterアカウント
公認情報システム監査人(CISA)、元国連職員。
https://twitter.com/May_Roma

====

この発言の言わんとしているところは、

すでに独立できている人たちが共通してもっているのは
「料理の腕前/修行時代の蓄積」である。

ということですね。

これを私なりに無理やり言いかえますと、

「修業時代の蓄積」=「累積戦略」
「独立して自らで仕事を受ける」=「順次戦略」

となります。

ここからがとても重要なポイントなのですが、

まずは、先に土台となる「累積戦略」があり、
その基盤があればこそ、「独立する」といった、
意識的な「順次戦略」が初めて活きてくる、ということです。

これはまさに、あの偉大な戦略家、ワイリーが、
自著『戦略論の原点』の第三章で述べていたロジックそのもの。

昨今、巷では、
「独立して"ノマドワーカー"になることが先決だ」
といった、いかにも「順次戦略」最優先の、
私からすれば、かなり危険な認識が流行しているようです。

「まずは修行時代が必要だ」という、戦略論的にも至極真っ当な、
このメイロマ女史のTwitter上での主張は、このような風潮の中で、
なかなか受け入れられない部分もあるのでしょう。

メイロマ女史がTwitter上で繰り広げる言説については、
いろいろと賛否両論が巻き起こるそうですが、その"炎上"の原因の一端は、
このような「順次戦略」一辺倒の現代日本の風潮にもあるのかと。

-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-:-

本当に大事なものというのは、
たとえ時代を越えても変わらないものばかりです。

そして、「累積戦略」というのも、人間が人間であり続ける限り、
いつの時代になっても、その価値が失われることはないのです。

▼「累積戦略と順次戦略」を徹底解説!
「Cumulative & Sequential Strategy」

→ → http://www.realist.jp/cumseq.html

( おくやま )

つづきはこちら アメリカ通信バックナンバーへもどる


「戦略の階層」を解説するCD

戦略を語れない人生は奴隷だ

技術を制するのは高度な技術ではない。より上流階層からルール決めには対抗できない。
今こそ日本人は「戦略の階層」を学び、その全体像を理解しなければならない。

詳しくはこちらをどうぞ


このサイトはリアリズムについて学ぶ人を増やすためのサイトです。

さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。