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地政学を英国で学んだ
しばらくお待ち下さい。
2013年03月15日 "天才ハードラー"為末 大氏の「大戦略」

おくやまです。

前回のエントリーのつづきとして、今回は

「一般に出回っているあらゆる種類の戦略本では、
なぜ累積戦略の重要性が説明されないのか」

という三つの理由のうち、前回説明した一つの他の、
あと二つを説明するつもりでしたが、
ある有名な元アスリートがネット上で貴重な発言をしたので、
今回はこれについて簡単な説明を。

私は基本的にスポーツや武道の経験、
もしくは楽器などを含む芸術系の心得がある程度ある人たちというのは、
「累積戦略」と「順次戦略」の違いについては
体感的にわかっていると前から感じておりました。

たとえば、私が講演などで「累積戦略」の説明をする際に
よく引き合いに出すのが、武道の「型」を学ぶ時のエピソード。

型というのは一般的に複雑な動きを順序よく覚えなければいけないわけですが、
ある程度の技術レベルに達しないと
なかなかスムーズに演技できない難しい部分が誰にでも出てきます。

ところがこの難しい型のパートを、それこそ毎日繰り返して行っていると、
ある日、ある瞬間から、突然スムーズにできるようになることがあります。

このスムーズにできた瞬間を、人によっては
「自分のスキルがジャンプした感覚だ」と表現する人もいるわけですが、
これがまさに累積戦略によって出てくる「創発」という効果です。

一般的に、スポーツや武道、それに芸事をある程度行っている人というのは、
このようなスキルの「創発」の瞬間を多かれ少なかれ感じているわけですが、
このような戦略の皮膚感覚というものを、
たとえばスポーツ選手たちが言葉でうまく表現できるかどうかというのは、
また別のスキルが必要になってくるわけです。

たとえば昭和の名選手として名を残している
巨人軍の長嶋茂雄選手などは、絶頂期にインタビューである記者に、
バットコントロールをどのように行っているのかを聞かれた時に、

「こうやって、ダーって打つんだよ、ダーって!」

と表現したのは有名な話ですが、
これなどは選手としての才能はあるのに、それをうまく言語化できていない典型的な例。

その反対に、選手の中にはそれをかなり的確に言語化して表現できる人も多く、
たとえばヤンキースのイチロー選手などは、うまく表現できている部類に入るでしょう。

さらに最近は、そこから哲学的なところまで語れる
という元スポーツ選手の珍しい人も登場してきておりまして、
それが、為末大さんという日本陸上界のスーパースター。

彼は自らがスポーツ選手として最前線で戦ってきた経験をいかして、
現在様々な意見をネット上(とくにTwitter上)で発信して、
それが著書にもなっているわけですが、
この彼が先日つぶやいたTweetの中に、
まさに「累積戦略」と「順次戦略」の違いを別の言葉で言い換えたものが登場。


▼【積む努力、選ぶ努力】
http://togetter.com/li/471333

この中の最後のTweetで、為末氏は、

--
まず積み重ねられるかどうか。
これは大前提なのだけれど、その次に自分で将来どうなりたくて
その為に必要なものをちゃんと理解できているかがくる。
積み重ねる方にだけ必死になっていて、
選ぶ努力を怠ったが故に、立ち止まっている人も多い
--

という言葉を残しておりますが、
この「まず積み重ねられるか」というのは「累積戦略」であり、
これは彼によれば「大前提」。

そしてその次に大切になってくる「選ぶ努力」というのは、
まさに「順次戦略」のことであり、
これができないと「立ち止まって」しまうことになるといいます。

「戦略論の原点」でも、著者のワイリーは
「累積が先、そして順次が後」ということを暗示しているわけですが、
軍事戦略とスポーツ選手が、究極的には同じことを言っているのは
興味深いところです。

「累積戦略」と「順次戦略」というのは、
分野を問わず普遍的に通用している概念であるということが、
この為末氏の言葉からもご理解いただけるかと思います。

この「累積・順次」の大戦略について、
徹底的に解説しておりますので、ご興味あるかたはぜひ。

▼「累積戦略と順次戦略」を徹底解説!
「Cumulative & Sequential Strategy」
〜クワイエットを読み解く:引きこもりが勝利する時代~

→ → http://www.realist.jp/cumseq.html

( おくやま )

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このサイトはリアリズムについて学ぶ人を増やすためのサイトです。

さて、早速ですが、・ネオコンをはじめとする勢力が狙ってきた米国の世界一極覇権支配は、長くは続かない。・中国が膨張し、アジアの覇権をねらい、世界は多極構造になる。 90年代から上記のように予想し、米国内でも論争してきたのがリアリスト学派です。

リアリスト学派は、国家のパワー(軍事力、政治力、人口規模、経済力等)がもっとも大事な要素と考え、

正義やイデオロギー、理念は関係ない。国際関係はパワーで決まり、パワーを予測し戦略を立てよう

と考える学派で、19世紀の英国の行ったバランス・オブ・パワーを活用した大戦略を信条とします。

ところが「リアリスト」を自認する日本の親米保守派は、
「経済中心主義」で「安保無料(だだ)乗り」をし続けていますが、
実は、彼らは、以下の2点で決定的、かつ、致命的な誤りを犯していたのです。
そして、そうした日本の政策は、冷酷な米国のリアリストから、
単なる「バンドワゴニング」に過ぎない、と足元を見透かされているのです。

その2点とは、

(1)日本はアングロサクソン(米英)についていれば大丈夫。

(2)米国は「民主制度」と「法治」、「人権」を重んずる日本を信頼し、
   一党独裁の共産主義中国を嫌っている。

ということです。

まず、(1)については、
日英同盟時も上手くいった。だから、これからも米国についてゆけば大丈夫!
万事問題ないというものです。

しかし、我が日本が戦後60年間、幸いにして戦争に巻き込まれなかったのは、
ほとんど偶然の産物であったということは、強く認識しておく必要があります。

米国は国益に係わることならば、いとも簡単に「友達」を切り捨て、裏切る国である。
国論が変われば友好国をあっさり切り捨ててきたことは、これまでの歴史の事実が証明しています。

・日中戦争では、蒋介石を応援しつつも、途中から毛沢東支援にまわった。

・ソ連打倒のためには台湾(中華民国)を切り捨て、中華人民共和国と国交を結んだ。

・ベトナム戦争では出口がみえなくなり、結局南ベトナム支援からあっさり撤退した。

・米国が支援していた南ベトナムは崩壊し、大量の難民があふれ出た。

・イラン・イラク戦争の時、イランが戦争に勝って影響力が拡大することを恐れた米国は、
 サダムフセインに(イラク)に軍事的な支援をした。
 しかし、支援した米国は干渉してこないと思ったフセインは、その後クウェートに侵攻し、
 湾岸戦争、イラク侵攻と2度の戦争で米国に打ちのめされ、最後は米軍に捕まり処刑された。

如何でしょうか?

これでもまだあなたは、アメリカはずっと「友達」でいてくれる!

と思えますか?

次に、(2)についてですが、
欧米メディアなどの報道によれば、米国内における中国の工作員の数は激増しています。
更には、人民解放軍には「政治工作条例」なるものまであります。
彼らは世論戦、心理戦、法律戦からなる「三戦」の任務を与えられ、
まさに今、中国は国策として、米国内で「世論戦」を仕掛けている、というのが冷酷な事実です。

正義や真実でなく、ウソでも現実をつくれると考える中国の
カネも人員もかけたまさに「人海戦術」的な、この国家戦略が功を奏し、
すでに米国世論では「尖閣は日本が強奪した島だ」ということに傾き始めている・・・
この危険な状況を皆さんはご存知でしょうか?

-*- -*-

例えば、韓国との従軍慰安婦問題をみるまでもなく、
日本国内で、いわゆる「保守派」といわれる人達が、
どれだけ「真実」を主張しても、
同じ日本人であるはずの国内左翼勢力がこの外患に呼応するという、
典型的なパターンに陥っている事例は、枚挙に暇がありません。

白州次郎は「日本をプリンシプルのない国」と言いました。
しかし、残念ながら、この分析は現在の日本にも今だに当てはまっているのです。

これらの冷酷な事実を踏まえ、
本サイトで皆さんとともに真剣に考えていきたいのは、以下の2点です。

・日本はいかにして「パワー」を獲得すればいいのか?

・どんな国家像を描き、グランド・ストラテジーを立てればよいのか?

この二つの質問を念頭に据えて、米国のリアリスト思考を学び、
日本におけるリアリスト思考を広げ、リアリスト学派をつくっていく。

これが、このサイト、www.realist.jpの目的です。
あなたも是非議論に加わって下さい。



リアリスト思考を最初に日本にもたらした、
シカゴ学派、元フーバー研究所上席研究員、故・片岡鉄哉先生に捧ぐ

日本がこのままの状態でいけば、
少なくとも十年以内に、二流、三流の地位まで確実に堕ちていくことになる。
現在の日本の状況を冷静に見れば、
どう考えてもそういう結論しか出てこないのだ。
しかし、日本はそのまま堕ちっぱなしというわけではない。

何年後になるかわからないが、日本はしぶとく復活するはずである。
国家というのはいつまでも堕ちっぱなしということはなく、
反省して自覚した国民が生まれ、それが国を復興することになるからである。

そのときに、決定的に必要となつてくるのが「理想」である。

地政学の祖であるマッキンダーは、
「人類を導くことができるのは、ただ理想の持つ魅力だけだ」
と言っている。

しかし彼は、同時に現実を冷静に見る目を
忘れてはならないことを鋭く警告している。
それが地理と歴史を冷静に分析した、
地政学という学問が与えてくれる視点なのである。
彼が一九一九年に発表した『デモクラシーの理想と現実』
という本の題名は、このような理想と現実のバランスの大切さを訴えている。

世界はこれから「カオス化」していく。
これはつまり、世界はこれからますます複雑化した
先の見えない場になるということである。

そして日本は、「カオス化」された状況の中で
自立を目指さなければならないし、
むしろ自立せざるを得ない状況に追い込まれることになるかもしれない。
そして、その中で世界に伍していくためには、
日本人は何よりもまず、リアリズムの思考法を身につけなければならない。

日本人は自分で責任を持って戦略を考えるという思考を捨ててしまい、
安易に平和的な解決だけを求めるという体質が染みついてしまった。
たとえば、外交における戦略も「善か悪か」で判断するため、
善を探そうとするあまり、次の一手がどうしても遅くなる。

しかも、日本が「善かれ」と思って世界に主張したことは、
まずもって善として見られていない。
他国はリアリズムの視点で「日本が何を狙っているのか」
と冷酷に見ているのだ。
だからこそ、わが国も外交戦略を「善悪」ではなく、
「強弱」で見るように訓練しなければならない。
「強弱」とは、現在わが国にとって、
この政策は他国と比べて立場を強めてくれるのか
弱めるものかという冷静な判断である。

弱いのであれば、より強い政策を打ち出さなければならないし、
強いものであれば、政策をより国益に近づけなければならない。
こうしたリアリズムの思考を身につけることは、
むしろ「国際的なマナー」なのである。